はじめに
こんにちは!市川です!
僕の自己紹介はコチラ

循環器内科医としての病院勤務の傍らで、国際山岳医(DiMM)として以下のような活動をしています。
✔️登山者検診/登山者外来による予防・登山サポート
✔️赤岳鉱泉山岳診療所を運営(日本で唯一冬季診療も行っている診療所)
さらに「登山をもっと安全に」をミッションとしてブログを通じて登山における医学的内容を発信しています。
市川智英
今回のテーマは「凍傷第2回:初期対応について」です。
今回の凍傷シリーズは全3回でお送りしています。
- 第1回:雪山の凍傷はこうして起きる|八ヶ岳22症例からわかった“凍傷の現実”
- 第2回:凍傷初期対応のDo&Don’t〜急速解凍はすべきなのか?〜
- 第3回:病院での凍傷治療は?〜日本一の凍傷治療経験を誇る諏訪中央病院〜
第1回を読んでない方は是非そちらも閲覧下さい!

八ヶ岳は日本でも有数の凍傷多発地帯です。
赤岳鉱泉山岳診療所は八ヶ岳赤岳鉱泉に併設する山岳診療所であり、国内では唯一の厳冬期も開設している山岳診療所です。
過去4シーズンで計22例の凍傷症例が受診しており、実はこれは驚くほど多い数です。
今回の記事では、赤岳鉱泉山岳診療所での経験やWMS凍傷予防&治療ガイドライン2024を元に
- 凍傷治療の初期対応
- Do:やるべきこと
- Don’t:してはいけないこと
- 急速解凍のメリット・デメリット
について詳細に解説します!
雪山登山を行う方、バックカントリーをされる方には必修の内容です。
特にDon’tについては絶対にしないように入山前に熟読して、まとめ画像をスクショしておいて下さい!
- 実例写真を掲載しています。過激な写真は自制していますが、苦手な人はご注意下さい。
(「急速解凍のデメリット」、「山中での急速解凍の現実」で写真掲載しています。)
結論:凍傷初期対応Do & Don’t
まずは結論から行きましょう!
下記の図で初期対応の全体像を把握して下さい。

こちらの図は雪山で遊ぶ人・働く人が知っておくべき凍傷初期対応エッセンスをまとめています。
是非、スクショして登山中にも参照できるようにしておいて下さい!
「Do:やるべきこと」ができなくても、
「Don’t:してはいけないこと」だけ避けて、速やかに病院受診するだけ
でも凍傷の予後は大分良くなる可能性があります。
それでは次の章から
- Do:やるべきこと
- Don’t:してはいけないこと
に分けて詳しく解説していきます。
凍傷の初期対応Do:腋窩で10分温めて凍傷かどうかを判断する
「凍傷かもしれない・・・」と疑ったら、以下の順で初期対応していきましょう。
凍傷と低体温症は同じ寒冷環境で発生しますし、低体温症があれば凍傷はより発生しやすくなります。
そして、凍傷のみで命に関わることはありませんが、低体温症は命に関わる事態です。
「凍傷かも・・・」と思ったら、まずは低体温症は大丈夫なのか確認しましょう。
低体温症の判断はCold Cardを使うといいですね。
ただし、本当の低体温症は自分では判断できないこともあるので可能なら同行者に判断してもらうとbetterです。
詳細は以下の過去記事を参考にしてください👇

これは凍傷の治療目的でやるわけではなく、”凍傷なのかどうか見極め”のための方法です。
- 感覚が改善する→○凍傷ではありません。
凍傷に注意しつつ、登山行動を継続して下さい。 - 感覚が改善しない→×凍傷の可能性が高いです。この先は凍傷として③④⑤対応していきましょう。
凍傷を疑うのであれば、即時撤退です。
- できるだけ早く野外の寒冷環境から抜け出す必要があります。
- 「すぐに近くに山小屋がある」、「登山口まであと5分」のような感じで短時間で野外環境から抜けられるならまずはそれを優先しましょう。
- そうではない状況、つまり、野外環境から抜け出すのにかなり時間がかかるということの方が多いでしょう。その場合には、ツェルトをかぶって風をよけるなど、少しでも外界から隔離します。
- その上で、しっかり水分とカロリーを補給しましょう。
特に水分補給は重要です。
そもそも寒冷地では寒冷利尿によって“脱水になりやすい”です。
寒冷利尿を嫌がり、冬山ではあまり水分を摂らないという人も多いでしょう。
凍傷は血管収縮と微小血栓によって末梢組織の血液灌流が悪くなることによって起こります。
脱水になると・・・
- 血液粘稠度が上がる→微小血栓ができやすい
- 循環血液量が減る→患部の血液灌流が悪くなる
といった理由で凍傷が悪化しやすくなります。
病院までまだまだ時間がかかります。
しっかりと水分を摂って凍傷の悪化を少しでも減らしましょう。
下山まで安全に行動するためには当然カロリーも必要です。
食事から得たカロリーの一部は体温に置換されるので、凍傷に対しても有利に働きます。
凍傷部位には知覚障害が出ています。
触っても感覚がなく、痛みもありません。
そのような部分に怪我を負うと凍傷は一気に悪化します。
凍傷部位を傷つけないようにしっかり保護しましょう。
- 野外行動中であれば、水疱もないはずなので、そのまま冬用グローブ、冬靴で行動すれば大丈夫です。
凍傷側の手に関しては、できればあまり使用しないようにしましょう。
「山小屋に入って手袋を外してから凍傷に気がついた・・・」というケースもあるでしょう。
その場合には徐々に水疱が出来てくることがあります。
Don’tでも解説しますが、水疱は絶対に破ってはいけません。
- 手袋ができるレベルの軽い水疱であれば手袋で保護した上で、極力凍傷側の手は使わないようにして、速やかに下山しましょう。
- 手袋ができないレベルの大きな水疱であったり、足の水疱であれば、自力下山は諦めて救助要請しましょう。
下山中に水疱を破ってしまったり、不十分な保護・保温で再凍結させたら、確実に凍傷は重症化します。
ポイントは“現地”の医療機関を受診するというところです。
第1回の中でも解説しましたが、世の中の医師の大半は凍傷を診たことがありません。
特にずっと都市部で働いている医師であれば、なおのことです。
したがって、自宅近くの医療機関にかかっても、たらい回しにされるか、適当に治療されてしまいます。
言い方が悪いかもしれませんが、事実であり、僕ら医師も万能ではないので仕方がありません。
進行がゆっくりとした疾患であれば、その希少性ゆえに多少時間がかかっても最終的に適切な診断・治療に繋がればいいのですが、凍傷は緊急疾患です。
指先・足先の壊死は刻一刻と進行します。
できるだけ速やかに凍傷治療を開始すべきなので、下山口から最寄りの大きめな医療機関を受診して下さい。
八ヶ岳エリアであれば、諏訪中央病院がオススメです。
赤岳鉱泉山岳診療所とも連携しているので、速やかに凍傷治療を開始してもらえます。
諏訪中央病院については「第3回:病院での凍傷治療は?〜日本一の凍傷治療経験を誇る諏訪中央病院〜」でご紹介させていただきます。
凍傷のDon’t:不用意に温めるのは注意!
Do:やるべきことよりも、もしかしたら重要になるのが、Don’t:やってはいけないことです。
これらの行動を行うと、凍傷は一気に悪化する恐れがあります。
手を擦り合わせて温めない!
手を擦り合わたり、揉んだりして温めたぐらいで、凍傷が良くなることはありません。
「Do:やるべきこと」でも解説しましたが、凍傷部位は知覚障害があり、痛みがわかりません。
また、組織自体も弱くなっているので、簡単に損傷してしまう可能性があります。
手を擦り合わせることで、不用意に怪我をしたり、水疱を破ってしまうことは避けましょう。
目に見えないレベルの微小血管を破壊してしまい、凍傷が深部化してしまうことに繋がります。
ストーブやバーナーで温めない!
- 山小屋のストーブ
- テント内でのバーナー
暖かいですよね。
凍えた手足をこれら熱源で温めたくなる気持ちはとてもよく分かります😅
しかし、基本的に凍傷は人肌以上の温度で温めてはいけません。
何度も繰り返しますが、凍傷部位は知覚障害があり、触覚・温痛覚がなくなっています。
つまり、ストーブやバーナーのような高温では気づかずに熱傷を負ってしまう可能性があります。
凍傷+熱傷は最悪です。
末梢血流はさらに悪くなり、一気に凍傷が重症化してしまいます。
急速解凍は行わない
自然解凍よりも急速解凍の方が優れている
積雪期登山に慣れている熟練の登山者であれば、こんな知識を持っているかもしれません。
もしくは、そこまでの知識はなくても、なんとなく映画やドラマなどで「テントの中でお湯に手足をつけて解凍している」映像を思い出して、やってみようと考える初心者の方もいるでしょう。
「自然解凍よりも急速解凍の方が優れている」のは事実ですが、
山中(テント・山小屋内を含む)では急速解凍は絶対に行わないで下さい。
「なぜ急速解凍をすべきではないのか?」
その理由は長くなるので、次章で解説します。
再凍結は絶対にさせない
再凍結とは、一度解凍された手足を再度寒気にさらして凍結してしまう現象です。
一般的に“凍傷において再凍結は最悪”といわれています。
凍結→解凍を行うと、
- 氷晶形成による血管内皮損傷
- 微小血栓形成
- 再灌流に伴う浮腫
が起こります。
この強い浮腫状態で再度凍結→解凍を繰り返すと、トロンボキサン・プロスタグランジン・ブラジキニンなど炎症性メディエーターが大量に放出され、
- すでに脆弱化した血管内皮や細胞膜が破壊される
- 微小血栓が多量に形成
- 血管攣縮による血流悪化
これらにより、組織壊死が一気に拡大します。
凍傷において再凍結は最悪です。
絶対に避けるべき事象です。
下山後に温泉で温めない

凍傷かもしれない・・・と思って、下山後に温泉に入って温めたら、ジンジンと痛んで一気に水疱が出来てきました。
こういう人がたまにいます。
赤岳鉱泉山岳診療所で「凍傷だからすぐに病院を受診して」と紹介状を渡したにも関わらず、なぜか下山後に温泉に入ってから受診したという冗談みたいなケースすらあります😥
温泉に浸かると水疱が一気に出現します。痛みも激しくなるでしょう。
余計なことはせずに、下山後は病院へ直行して下さい。
水疱ができてしまったら・・・



水疱を破るのは禁忌です。
基本的には透明水疱であっても感染予防として破らないほうがいいが、緊満した水疱は行動中に破れてしまう可能性が高いので、そうであれば、穿刺吸引して、保護しておくという選択肢もあるというスタンスです。
「透明水疱内にはプロスタンディン、トロンボキサンなどの炎症性メディエーターが多く含まれるため、排出することで局所の炎症を軽減する可能性がある」という理論が根拠になっていますが 、Weak recommendation, low-quality evidence(弱い推奨、低い品質のエビデンス)となっているように、その根拠は乏しいです。
諏訪中央病院で20年近くにわたり凍傷診療を続けている光楽先生のお話では、



×水疱は絶対に破ってはいけない。
水疱を破るとその部分から壊死してくる。
ということです。
自然解凍 vs 急速解凍:急速解凍はやるべきでない⁉
結論から行きましょう。
山中での急速解凍はやるべきではありません
※山中とはテント内や山小屋内も含みます



そもそも急速解凍って何?
こういう方もいると思いますので、まずは自然解凍と急速解凍について解説します。
凍傷になるということは手足の末端が凍結するということです。
凍らせたままにしておくわけにはいかないので、解凍が必要です。
自然解凍とは?
環境温(テント内、山小屋内など)で”徐々に”温まることによって、受傷部位が自然に解凍される状態。
急速解凍とは?
37〜39℃の温水に患部を浸し、20〜30分ほどで速やかに解凍する方法。
温度は“厳密に一定”にコントロールする必要があります。
細胞レベルの研究では、
凍結組織ではまず細胞外に氷ができ、細胞外液の浸透圧が上昇し、細胞内から水が引き出されます。
その状態でゆっくり解凍すると・・・
✓氷晶の「再結晶化」
✓高浸透圧状態が長く続く
によって、細胞膜や内皮細胞が傷害されてしまいます。
したがって、「0℃付近〜マイナス数℃の“半端に凍っている帯”を、できるだけ短時間で通過させる=急速に温めて一気に解凍する」ほうが、理論的に組織保護的と考えられています。
このことは、動物実験(ウサギの耳)でも検証されており、急速解凍の方が壊死範囲が抑えられることが分かっています。
これらの結果を受けて、WMS凍傷予防・治療ガイドライン2024では、以下のように推奨しています。
解凍後の患部の保護と再凍結予防が可能ならば、急速解凍を強く推奨。
急速解凍ができない状況であれば、自然解凍を容認する。
凍傷治療におけるエビデンス
上記のように細胞レベルの実験、動物実験、凍傷治療ガイドラインのいずれも「急速解凍>自然解凍」としています。
しかし、実はヒトを対象としたRCT(ランダム化比較試験)は存在しません。
2020年、New England Journal of Medicineに掲載された凍傷治療に関するコクランレビューがあります。
このコクランレビューのなかで、「解凍治療 (rewarming)・薬物療法・手術療法など “どれがベストか” を決める十分な高質エビデンスは現状存在せず、 “最適な治療法は不明” 」と結論づけています。
コクランレビューというのは、「世界中の臨床研究を網羅的に集め、偏り(バイアス)を最小化して統合した、現時点で最も信頼できる結論を示す文献」と考えて下さい。
この研究で世界中の凍傷研究を横断的に検索して検証した結果、統合する価値があると考えられた論文はイロプロストという血管拡張薬に対するRCT論文1本のみでした。
しかも、このイロプロストに関する研究さえ、very low-qualityと判断しています。
つまり、凍傷治療全体がまだまだ非常に発展途上で、確立したエビデンスと呼べるものがほとんどないことを示しています。
コラム:凍傷のエビデンスについて
(タップすると開きます)
山岳医療自体が“研究デザインを組みにくい環境”、“症例が集まりにくい”といった問題があり、ランダム化比較研究や大規模前向き研究が成立しにくく、後ろ向き研究・症例報告・専門家合意に依存せざるを得ない という事情があります。
とりわけ凍傷の世界では症例数は非常に限られていて、極限状態で発生することも多いことから、ガイドラインといえどもエビデンスレベルが低いのが実情です。
凍傷に関する人体での研究は少なく、細胞レベルでの研究や動物実験結果をそのままガイドラインに引用しており、一般的な診療ガイドライン・医学研究ではあり得ないような状況です。
こと凍傷に関しては「ガイドラインに書いてあることが必ずしも正しいとは限らない」という視点で読むことが大切です。
急速解凍のデメリット
結局、何が言いたいのかというと・・・



”急速解凍が自然解凍よりも優れている”というは机上の空論ということです。
確かに実験室レベルでは、急速解凍の方が壊死範囲を抑えられるのでしょう。
しかし、現実的には、ある程度の環境・設備が整った山小屋内であってもまだ山中から抜け出せていない状況で、急速解凍をすべきではありません。
- 急速解凍では激しい疼痛+巨大な水疱を形成する
- 疼痛管理が必須
- 水疱を破らないように下山する必要があるが現実的にはほぼ破れる
- 病院受診までに再凍結リスクがある
- 急速解凍=治療完了ではない
- 病院での凍傷治療に連続的につなげる必要がある
- 解凍後にすぐに専門医療機関に移送できる保証がない


山中での急速解凍の現実
山中での急速解凍事例紹介
※タップすると凍傷画像が出てきます。参考になるので是非見ていただきたいですが、苦手な方はご遠慮下さい。




上図は諏訪中央病院 光楽先生から提供していただいた症例情報と写真です。
山小屋のご主人に助けてもらったところまでは非常に幸運だったと思います。
しかし、助けられたのは夜間。救助は明日朝まで来ない。
そこで山小屋の中でお湯につけて急速解凍を行いました。
その結果は当然のごとく巨大な水疱が出来てしまい、愛護的に扱ってもやはり搬送中に破れてしまいました。
通常であれば、凍傷は血流が悪い末端部がより重症になります。
指先だけ落ちてしまった凍傷後の方を見たことがある人もいらっしゃるでしょう。
しかし、この事例の場合には末端部よりも水疱が破れた根本付近の方がより重症化してしまいました。



水疱内の血漿には炎症性メディエーターがあって良くないという報告もありますが、私はこの水疱(血漿)を介して酸素化をすることで凍傷指を救えると考えています。
絶対に水疱は破らないで下さい。
自然解凍であれば水疱ができても小さく被膜が硬いため破れにくいです。
病院での適切な治療につなげるためにも、急速解凍は推奨できません。


諏訪中央病院での治療内容については次回(第3回)で解説させていただきます。
まとめ
まとめです!
今回も長くなってしまいましたね😅
でも、それだけ凍傷治療にはエビデンスだけでは語れない難しい部分があります。
- 低体温症の確認を行う
低体温症があるのなら、低体温症への処置を優先 - 脇の下で10分間温めてみる
- 感覚が改善するなら行動継続可能
- 感覚が改善しなければ凍傷を強く疑う→③④⑤へ
- 水分をしっかり摂る
- 凍傷部分に傷を負わせないよう保護する
- 速やかに下山し、現地医療機関を受診(八ヶ岳なら諏訪中央病院を推奨)
- 手を擦り合わせて温めない
- ストーブやバーナーで温めない
- 急速解凍は行わない
- 急速解凍を行うと、激しい痛みと破れやすい巨大水疱ができる
- 再凍結をさせない
- 下山後に温泉で温めない
- 水疱は絶対に破らない
さて、
第1回:凍傷の現実
第2回(今回):凍傷の初期対応
と解説してきました。
次回はついに3部作完結編
第3回:凍傷は病院に行けば治る?|諏訪中央病院での”治療の実際”と”ガイドラインの限界” です!
- 凍傷治療とは何か?
- 病院ではどのような治療をしているのか?
そんなところを解説したいと思っています。
乞うご期待!
今回も長文を最後まで閲覧いただきありがとうございました!



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