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はじめに:高血圧でも登山していいの?
こんにちは!市川です!
僕の自己紹介はコチラ

循環器内科医としての病院勤務の傍らで、国際山岳医(DiMM)として以下のような活動をしています。
✔️登山者検診/登山者外来による予防・登山サポート
✔️赤岳鉱泉山岳診療所を運営(日本で唯一冬季診療も行っている診療所)
さらに「登山をもっと安全に」をミッションとしてブログを通じて登山における医学的内容を発信しています。
市川智英
今日のテーマは「高血圧患者さんは登山をしても良いのか?」です。

高血圧だけど、山に登って大丈夫だろうか・・・?
普段飲んでいる降圧薬はどうしたらいい?
登山好きの高血圧患者さんから、そんな質問を受けることは少なくありません。
結論から言えば、登山は有酸素運動と筋力トレーニングの両方の効果を兼ね備えた運動です。
したがって、きちんと血圧がコントロールされていれば、登山はむしろ推奨される運動になり得ます。
ただし、標高が上がると血圧が上がるというのは確立した事実であり、前提として適切な血圧管理、正しい知識と準備が必要です。
2025年に高血圧管理・治療ガイドラインが6年ぶりに改訂され、管理目標がシンプルになりました。
一口に高血圧患者といっても背景は様々です。
年齢、心臓病の有無、脳卒中既往の有無、腎臓病の有無、他の生活習慣病の有無などなど
それらの背景をひっくるめて、
原則として降圧目標は血圧130/80mmHg未満に保つことが推奨される
というシンプルな目標になりました。
登山開始前の下界で上記目標に達しているというのが登山を行う前提条件になります。
この記事では、高血圧と登山の関係を整理しながら、安全に登山を楽しむためのポイントを専門医の視点で解説します。
前回「【登山×血圧】高所で血圧は上がる?下がる?|循環器内科医が徹底解説」では、高所での血圧変動の理由とメカニズムを紹介しました。
本記事ではその続編として、高血圧の人が安全に登山を楽しむための実践法を解説します!
是非前回の記事と合わせて読んでください!


高血圧患者は運動療法が推奨されている ー登山が“理想的な運動療法”である理由ー
高血圧に運動療法が有効であることは多くの方がご存じなのではないでしょうか?
主治医から「運動して痩せましょうね」といわれたことがある方は少なくないはずです。
でも、具体的に「こういう運動をしましょう」と運動内容まで処方されるケースはかなり少なくなると思います。
高血圧に対してどのような運動が推奨されているのか?
- 有酸素運動が基本
- レジスタンス運動の併用
① 有酸素運動が基本
有酸素運動とは皆さんご存じのような、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、エアロビクスダンス、スイミングといった運動です。
そして、登山はウォーキングやジョギングと同じく、持続的な有酸素運動です。
心拍数を穏やかに上げることで、交感神経の過活動を抑え、血管を拡張しやすくします。
高血圧管理・治療ガイドライン2025でも、
高血圧患者に対して「中強度の有酸素運動(最大酸素摂取量の40〜60%)」が推奨されています。



最大酸素摂取量の40~60%というのがピンとこないんだけど?



息が弾むが会話ができる登山ペースがちょうどその範囲に該当します。
最大心拍数の75%=最大酸素摂取量の60%も目安になりますね。


② レジスタンストレーニング
かつては主に有酸素運動が推奨され、レジスタンストレーニングつまり筋トレは推奨されていませんでした。
しかし、近年では有酸素運動とレジスタンストレーニングを組み合わせることが重要だとされています。


健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023
登りでは下肢筋群を使い、荷物を背負うことで下肢ならびに体幹の自然な筋トレになります。
- 1RMの40~60% ≒ 15〜30RM
- 高重量や息を止めるような動作・筋トレは避ける
RMとは、Repetition Maximumの略で、「最大反復回数」を意味します。
ある決まった負荷に対して、正しいフォームで何回反復して筋収縮できるか限界回数を示す指標であり、
となります。


1回最大挙上重量(1RM)の40〜60%程度の負荷、つまり15〜30回できるくらいの強度で筋トレすることで、高血圧患者においても筋力維持と代謝改善による降圧効果が期待できます。
では、登山ではどうなのか?
登山で必要なのは「筋力ではなく、筋持久力」です。
山本正嘉先生は著書「登山の運動生理学とトレーニング学」の中で、
登山者の場合、中等度の筋力を長時間にわたり発揮し続ける筋持久力が求められるので、15RM以上の負荷での筋トレが望ましい
としています。
👇山本先生の「登山の運動生理学とトレーニング学」はオススメなので、運動生理学に興味がある方は是非!
③自然環境によるストレス緩和と自律神経改善
自然環境に身を置くことは、ストレスホルモンの低下・副交感神経の活性化をもたらします。
この結果として、自然環境に身を置くことで、血圧低下、脈拍数の低下が報告されています。
Park BJ et al. Environ Health Prev Med. 2010;15(1):18–26.
注意:高血圧患者はだれでも運動が推奨されるわけではない
- 事前にメディカルチェックを推奨
- 脳心血管病のない場合、
家庭血圧160/100mmHg以上:まずは血圧コントロールが優先 - 脳心血管病のある場合、
個別に運動許容の範囲を医療機関で確認する
- 脳心血管病のない場合、
家庭血圧160/100mmHg以上の場合には内服治療で血圧コントロールしてから、運動開始することが推奨されています。
つまり、まずはしっかりと薬物治療で血圧がコントロールされていることが前提で、運動療法≒登山を行いましょう。



「高血圧だから登山で血圧下げるんだ」といきなり登山をするのはオススメできません。
高血圧の現状とリスク
日本人の高血圧有病者数は4300万人
日本では約4300万人が高血圧を有しており、そのうち3100万人が血圧コントロール不良です。


高血圧管理・治療ガイドライン2025より引用・著者作図
高血圧は「よくある病気」と軽視されがちですが、その影響は深刻です。
高血圧を甘く見てはいけない
高血圧の定義はかなり複雑です😓


こんな表は覚えられないので、覚える必要はありません。
僕もうろ覚えです😅
日常臨床をしていて感じるのは「高血圧患者さんは血圧が高い数字に慣れすぎている」ということです。



薬を飲んでると血圧が110ぐらいになってしまうんだけど大丈夫ですか?



全然大丈夫です😊
むしろ、ようやく正常値になりましたね。
普段から血圧が高い人は、本来は正常値の血圧を低すぎると感じてしまうんですね。
慣れって怖いですね😅
血圧120/80mmHg 以上は全員ハイリスク
👆こんなデータがあります👇
高血圧は、脳・心臓・腎臓・血管といった重要臓器にダメージを与え、以下のような疾患を引き起こします。
- 脳血管障害:脳梗塞・脳出血
- 心疾患:冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、心房細動、大動脈弁狭窄症
- 血管疾患:大動脈瘤、大動脈解離、末梢動脈疾患
- 腎硬化症
- 血管性認知症
特に120/80mmHgを超えると脳卒中・冠動脈疾患・認知症のリスクが上昇し、年間17万人が高血圧に起因する脳心血管疾患で亡くなっています。


高血圧を持つ登山者の注意点
高所では血圧が上がる。運動でも血圧が上がる。
以前の記事で解説したように「高所では血圧が上がります」
運動でも血圧が上がるため、高所で運動する登山では血圧は上がります。
その前提で考える必要があります。
したがって・・・
家庭血圧160/100mmHg以上の場合には内服治療で血圧コントロールしてから、登山を開始しましょう。
登山による高血圧リスク
急激な血圧上昇
登り始め
寒冷刺激
息こらえ
などで急激な血圧上昇が起こります。
登り始めはゆっくり、そして、適切な防寒対策を行いましょう。
高所による交感神経活性
標高が高くなると交感神経が優位になり、血圧は上がります。
→ 前述の通りですが、平地での血圧をしっかりコントロールしてから登山をするのが原則です。
脱水と電解質異常
登山では発汗しますし、高所による利尿作用で尿量が増えるため、血液量が低下します。
特に降圧薬の中には利尿作用が含まれるものもあります。
登山中には適切な水分・塩分補給を意識しましょう。



高血圧だから塩分制限するよう言われてます・・・
どうしたらいいですか?



普通に行動食を食べていれば、十分に塩分を摂っています。
塩飴などで無理に塩分補給する必要はありません。
暑くて食事が喉を通らないならスポーツドリンクやOS-1、塩飴もオススメです。
日本人の1日あたりの塩分摂取量は約10g(10,000mg)ですが、
一般的には1日2g(2,000mg)の塩分を食べていればヒトは生きていけます。
登山中には発汗が多いので、積極的な塩分制限をする必要はありませんが、逆に意識して塩分補給をしなくても普通に行動食を食べていれば、およそ十分な塩分が補給できます。
食事が喉を通らないときには、ポカリやOS-1、塩飴などを検討しましょう。




急な血圧低下
高血圧の方は、相対的に血管が硬くなっています。
本来は血管は血圧の緩衝材として働き、急激な血圧変動が起きないように弛緩と収縮を繰り返しています。
高血圧の方はその機能が落ちています。
したがって、高温・脱水・降圧薬過量・飲酒によって、過度に血圧が下がるリスクがあります。
赤岳鉱泉山岳診療所でも・・・
朝に降圧薬を飲み忘れたため、心配になって昼に2回分の降圧薬を一気に服用。
その後にビールを飲んで血圧低下し、意識不明となり倒れた・・・という事例があります。
上記はかなり極端な事例ですが、
①登山で発汗して脱水状態
②山小屋に到着して安心感とともにビールで乾杯
③血圧低下で倒れる
という事例はあとを絶ちません。
降圧薬は適切に服用して、ビールを楽しむ前にキチンと水分・塩分補給をすることが大切です。
降圧薬は「朝食後」で処方されていることが多いですよね💊
しかし、登山の場合には朝4時スタートなど、朝食と登山開始の境目が不明でいつ薬を飲めば良いのか分からないという方もいるかもしれません。
ほとんどの降圧薬は必ずしも「食後」でなくてもかまいません。
どちらかというと一定の同じような時間に飲む方が重要です。
毎朝7時に飲んでいる方は食事と関係なく、登山日も朝7時に飲むといいですね。
※一応、主治医の許可を得てください😅
心血管イベント
慢性的な高血圧+急激な血圧上昇は心筋梗塞リスク・脳卒中リスクを高めます。
これらを避けるためには、
- 事前のメディカルチェック
- 無理のない行動
が重要になります。
結論としては「オススメの降圧薬はありません」
なぜなら高地での降圧薬治療は体系的には研究されていないからです。
「どれがオススメかよくわからん」ということですね😅
しかし、全く研究がされてないわけではなく、多くの薬剤は基本的に有効と考えられています。
登山中にも・・・
- β遮断薬やCa拮抗薬は比較的安定して有効
- ACE阻害薬やARBは低酸素下で効果がやや減弱する報告がある
- 利尿薬は脱水リスクを増やすため慎重投与が必要
Narvaez-Guerra O, et al. Hypertension. 2018;72: 567–578. PMID: 30354760
などが言われてはいますが・・・。
僕の個人的な見解としては、「主治医が適切と考えた降圧薬を飲みましょう」です。
登山者であっても、ほとんどの方は平地で生活している時間の方が圧倒的に長いです。
降圧薬にはいろんな種類があり、主治医の先生は皆さんの背景を考慮して使い分けています。
多少の登山に向き不向きはありますが、確立したエビデンスでもなく、あくまで多少のこと。
皆さんの主治医が皆さんの将来を考えて処方した降圧薬をしっかり服用することが大切だと思います。
実践的な登山指針
登山前
- 平地での血圧コントロール
- 事前のメディカルチェック
- ザックの重さは15RMできる量で
平地での血圧コントロールを確認
事前のメディカルチェック
高血圧の方は他にも生活習慣病を持っていることがあり、複数の生活習慣病はかけ算で脳心血管リスクを上げます。
山で脳心血管病を発症した場合に救命できる可能性はかなり低いです。
- 血圧の管理
- 他の生活習慣病の評価
- 運動負荷心電図による狭心症・不整脈の評価
など、事前のメディカルチェックは重要です。
ザックの重さは15RMできる量で
レジスタンストレーニングの項目でも解説しましたが、高血圧患者にとって「高重量や息を止めるような動作は避けるべき」です。
ザックの重さは15RM程度、すなわち
ザックを背負って15回連続でスクワットができるぐらいの重さに抑えましょう。
登山中
- 最大心拍数の75%程度(会話ができるペース)で登る
- 息こらえをなるべく避ける
- 適切な水分・塩分の補給
- 寒冷刺激に注意
- 適切な保温、衣服の着脱
- 過剰な保温による汗冷えにも注意
- 稜線に出る前には防寒対策を
宿泊時
- アルコールは控えめに
- しっかり水分補給をしてから、アルコールを摂取しましょう
- 十分な睡眠・保温
まとめ:登山を最適な運動療法へ
まとめです!
高血圧の方は登山中に脳心血管病を発症するリスクが高いことは事実です。
しかし、適切な準備と行動で安全に登れます。
- 高血圧状態での登山はハイリスク
- 事前の降圧管理は必須
- 過剰な高負荷(長時間・重装備・ハイペース)は運動療法の範囲を超えて、リスクになる
- 登山は「有酸素運動+下肢・体幹の筋トレ+自然環境によるストレス緩和」を同時に実現できる理想の運動療法になり得る。
- 適切な運動療法は良いこと満載
- 血圧コントロールの改善
- 体重・体脂肪率の減少
- 生活習慣病全体の是正
- 骨格筋量の維持→健康寿命の延伸
- 関節疾患の予防・改善
- メンタルヘルス不調の予防
- 認知症予防



適切にリスクコントロールして登山を楽しむことで、長期的な血圧コントロール・心血管リスク低下につなげることもできると考えています。
知識をつけて実践して、登山を”最適な運動療法”にしましょう!
以上です。
最後まで閲覧いただきありがとうございました!



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