はじめに|登山中に「顔がむくむ」理由と誤った対策
こんにちは!市川です!
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循環器内科医としての病院勤務の傍らで、国際山岳医(DiMM)として以下のような活動をしています。
✔️登山者検診/登山者外来による予防・登山サポート
✔️赤岳鉱泉山岳診療所を運営(日本で唯一冬季診療も行っている診療所)
さらに「登山をもっと安全に」をミッションとしてブログを通じて登山における医学的内容を発信しています。
市川智英

登山をするといつもむくんでしまう・・・。
下山後に利尿剤を飲んでみたら、あまりむくまなかった。
登山でのむくみに利尿剤っていいのかな?
赤岳鉱泉山岳診療所の受診者から上記のような連絡をいただきました。
ということで、
今日のテーマは「登山でのむくみに利尿剤は使ってもいいのか?」です。
かなりニッチなテーマですね😅
自分で提案しておいて本当に需要はあるのか心配になったんですが、chat GPTやGeminiに相談してみたら、どちらも「とても良いテーマ」だと褒めてくれたので、半信半疑で記事を作ってみました。
AIは何でも褒めてくれますが・・・😅
半信半疑とは言え、魂を込めて記事は作っていますので、是非最後まで閲覧下さい!
冒頭の質問に対する結論としては・・・



登山でのむくみに対して利尿剤を使用するのはオススメできません
むしろ、循環器内科医の立場としては、
「そもそもなぜ利尿剤を持っているの?」
「安易に利尿剤を処方する医師がいるのか?」
と不安になってしまいます・・・😅
利尿剤には副作用も多く、本来は「適切な疾患に対して、適切に処方されるべき」ですが、世の中にはいろんな方法で入手できるようです😓
もしそうであるならば、登山者の皆さんに登山と利尿剤の関係についての適切な知識が必要だなと思いました。
あらゆる薬剤は、
・主作用(目的とする作用)
・副作用(目的としない作用)
は表裏一体です。
副作用のない薬剤はこの世に存在しません。
本記事では、
- そもそも”むくみに対して利尿剤”ってどういうこと?
- 登山中の「むくみ」のメカニズムの復習
- 利尿剤を登山でのむくみに使うべきではない理由
- 「一般的な利尿剤」と「アセタゾラミド」の違い
- 登山後のむくみ回復目的での利尿剤使用はどうか?
- 病的なむくみの見分け方
これらを山岳医・循環器内科医の視点で解説します。
是非最後までお楽しみ下さい!
前回の「登山で顔や手がむくむのはなぜ?山岳医が教える3つの病態と正しい対策」と合わせてご覧いただくとより理解が深まると思います。


そもそもなぜ”むくみに対して利尿剤を使う”のか?
「むくみに対して利尿が効くのでは?」と疑問に感じる人よりも、



そもそもなんで”むくみに対して利尿剤を使う”の?
こんな疑問を感じる人の方が多いかもしれません。
一般的には利尿剤は心不全や腎不全といった方に使用される薬剤です。
心不全や腎不全の方はむくみやすいです。
これは心臓や腎臓の機能が悪いため、十分に尿が作られず、体液量(水分量)が多くなり、その結果として組織(間質)に水分が貯留して“むくみ”として現れます。
そこで出てくるのが“利尿剤”です。
利尿作用により尿量を増やすことで、体内に余分に溜まった水分を尿として排泄することでむくみが改善し、心臓への負荷も減らします。
こういうことを知っている博識の方が、



登山によるむくみにも利尿剤って効くのかな?
という発想になるのだと思います。
あるいは、
高山病治療薬として登山者の間では有名な「ダイアモックス(一般名:アセタゾラミド)」
- 高山病の症状としてむくみがある。
- ダイアモックスも分類としては「利尿剤」
- だから、利尿剤は登山でのむくみに効果があるのでは?
こんな感じの論法ではないかと推測しています。
「むくんでるなら利尿剤で尿として水分を抜けばいいのでは?」
これは登山中のむくみのメカニズムを誤解した危険な発想です。
確かにダイアモックスは高山病に有効です。
しかし・・・
高山病治療で使われるダイアモックス(アセタゾラミド)は「呼吸を促す薬」であり、高山病への効果と利尿作用は直接関係ありません。
むくみは病気ではなく、“疲労のサイン”
登山中のむくみは、体の循環が一時的にアンバランスになっているサインです。
大きく分けると、以下の2つに大別されます。
血管壁から水分が組織に漏れ出てむくむ
体液量自体が増えてむくむ
もう少し詳細に分けると、主に以下の3つの仕組みが関係します。
① 血管透過性の亢進(血管の壁がゆるむ)
運動負荷や低酸素によるダメージで血管内皮がゆるみ、体液が血管外に漏出します。
イメージ:水道管のひび割れによる水漏れ
② 毛細血管静水圧の上昇(末梢のうっ血)
低酸素・圧迫・重力などで血流が滞り、毛細血管内の圧が上昇することで、血管から体液が漏出します。
イメージ:一部の水道管が詰まることで、他の部分の水圧が上がって、水道管の継ぎ目から水が漏れる。
③ 体液貯留(体の水分量そのものが増える)
強い運動やストレスで抗利尿ホルモン(ADH)が過剰に分泌され、体液量が増加する。
その結果として、むくみが出現する。
イメージ:タンクの水が増えすぎて水道管全体の圧が高まり、水が漏れる。
登山中のむくみは「高所、運動、重力といった負荷に対する生体反応」 ≒「疲労のサイン」です。
登山中に利尿剤を使うべきではない理由
登山中には上記3つの仕組み(病態)が複合的に作用し、むくみが現れますが、
むしろ、登山中は発汗や呼吸で水分・塩分が失われており、体内は脱水気味(血管内の水が少ない)のことが多いので・・・
①血管透過性の亢進(血管の壁がゆるむ)
②毛細血管静水圧の上昇(末梢のうっ血)
が主な病態であり、
③体液貯留(体の水分量そのものが増える)
はむくみへの影響は大きくありません。
つまり・・・
登山中のむくみの多くは、血管外に水が漏れている状態(①②)であり、体内の水が多すぎる(③)わけではないということです。
この状態で利尿剤を使うと――
血管内の水分がさらに減り、循環不全・脱水・疲労悪化につながります。
利尿剤には様々な種類がありますが、おそらく登山者に対して一般的に処方されやすい利尿剤はラシックス(フロセミド)とダイアモックス(アセタゾラミド)でしょう。
フロセミドを含む一般的な利尿剤の多くは、Na利尿といって、Naと水分を同時に尿として体外に排泄させます。
発汗によって水分・塩分を喪失している登山中に、利尿剤を飲んで、さらに水分・塩分を体から抜くという行為は人体を危険にさらす可能性が高いです。
高山病治療薬「ダイアモックス」の誤解
急性高山病の症状は“頭痛”、“吐き気”であり、“低酸素による脳血管透過性の一過性の亢進=軽度の脳浮腫”が原因と考えられます。
しかし・・・



ダイアモックスは利尿作用で脳のむくみを治しているわけではありません。
ダイアモックスの薬理作用
ダイアモックスの薬理作用は主に2つです。
- 眼房水の産生を抑えて、眼圧を下げる→緑内障治療
- 尿をアルカリ化して、呼吸を促す→睡眠時無呼吸症候群、高山病治療(保険適応なし)
そもそもダイアモックスが主に使用される病気は緑内障です。
緑内障は眼圧が上がってしまう病気ですが、ダイアモックスは眼房水の産生を抑えることで眼圧を下げます。
そして、もう一つの作用が「尿のアルカリ化による呼吸促進」です。
本来は睡眠時無呼吸症候群に対して保険適応になっていますが、ほとんど使用されていません。
少なくとも僕は睡眠時無呼吸症候群に対してダイアモックスは使っていません😅
(睡眠時無呼吸はCPAPという呼吸器を用いた治療が有効であり、一般的です)
逆に保険適応にはなっていませんが、この呼吸促進作用を利用しているのが急性高山病に対する治療です。


上図で示すように、尿中の重炭酸(HCO3-)が増加(尿がアルカリ化)することで、血液は酸性化します。
体は血液pHを一定に保とうとして、呼吸中枢が刺激されて、呼吸が促されます。
(換気量が増えると二酸化炭素がたくさん排出されるので、血液pHがアルカリ性に傾くのです。)
一方で、重炭酸が尿から排泄される際に水分とNaも引き込んで、一緒に排泄されるため、利尿効果があります。
高山病治療として、水分とNaを排泄したいわけではなく、副作用として利尿効果があるのです。
つまり・・・
重炭酸利尿は“副作用”であり、利尿作用でむくみを取ることで高山病を改善させているわけではありません。
むしろ高所では、この利尿作用により脱水や電解質喪失のリスクが高まります。
下山後の利尿剤の使用はどうか?



利尿剤で実際にむくみが軽減して楽だった。
下山後なら安全だし、飲んじゃダメなの?
確かに、利尿剤で水分・塩分を抜けば、一時的にはむくみは改善します。
しかし、それは回復に必要な血漿まで奪っている可能性があります。
最初に解説しましたが、むくみは「疲労のサイン」です。
①血管透過性の亢進
②毛細血管静水圧の上昇
③体液貯留
が原因です。
特に①②が主因となっており、どちらも血管壁から体液(血漿)が漏出するという現象です。
下山後は筋損傷に対して、炎症によって血管内皮を修復し、循環再構築が進む大切な時期です。
このときに水分を過剰に排泄すると、回復に必要な血漿が不足して回復が遅れ、疲労が長引くおそれがあります。
むくみ=「余分な水が溜まっている」=体外に出せば良い



登山中のむくみは「血管内は脱水」だが「血管外には体液が貯留する」という分布異常(third space shift) です。
水を抜くより、流れを戻すことが大切です。
むくみを安全に改善する3つの対策
① 血管透過性の亢進への対策:休息と温冷交代浴
十分な休息をとるのが最も大切です。
その一助として入浴、特に交代浴(温水浴と冷水浴を交互に行う)は良いとされています。
📚 Vaile JM, et al. J Strength Cond Res. 2007; 21(3):697-702.
📚 Matos F, et al. J Strength Cond Res . 2018; 32(3): 756-763.
② 毛細血管静水圧の上昇への対策:静脈灌流を改善させる
静脈灌流を改善させる目的で以下の対策はオススメです。
- 軽いストレッチ・運動で筋ポンプ作用を回復
- リンパマッサージ:強く揉むのではなく、さする程度の軽いマッサージ
- 着圧ソックスを適度に活用
- 軽い入浴で温めて血流を促す
③ 体液貯留への対策
- 十分に休息をとる
- 水分と塩分を適切に補給(過剰な水だけの摂取を避ける)
- 翌日は軽い活動で末梢循環を促す
体液貯留の原因は疲労によるADH(抗利尿ホルモン)の不適切分泌です。
つまり、水分が尿として排泄されるべき状況でも、尿の生成が抑制されることで体液が溜まってしまうのです。
したがって、直接的に抑える方法はないのですが、休息することで疲労状態から抜け出すことが重要です。
ADH分泌を抑制するというエビデンスはありませんが、軽い運動や適切な水分・塩分の補給は筋ポンプによる血流促進や末梢循環の改善という観点からは、むくみ対策として合理的です。
病的なむくみは早めに受診を
- 数日経ってもむくみが引かない
- 軽い労作で息切れを伴う
- 体重が増加して減らない。むしろ、下山後も増えていく。
上記のような症状を伴うむくみは、病的なむくみの可能性が高く、心・腎疾患などが隠れている可能性があります。
これらの病的なむくみも利尿剤で一時的には改善する可能性は高いですが、
しかし、それは医師の診察・検査を経て、本当に必要なのかどうか適切に判断されるものです。
病的なむくみの場合には、あくまでむくみは1つの症状であり、その本態は心臓や腎臓などの重要臓器に隠れている可能性があります。
利尿剤でよくなったとそのまま放置していると、重大な疾患の診断が遅れてしまうことがあります。



上記のような休息だけでは改善しないようなむくみが続く場合には、安易に利尿剤を使用せずに早めに病院受診をオススメします。
まとめ
まとめです!
登山中や下山後のむくみは、”疲労のサイン”=体が損傷している証拠です。
血管の壁から水が漏れているだけで、必ずしも体内の水分が多いわけではありません。
- 体液量を減らす作用がある利尿薬は登山におけるむくみ対策としての使用は避けるべき
- 高山病治療薬としてのダイアモックスは「呼吸の促進」が目的であり、利尿作用はむしろ副作用
利尿剤で水を抜くと、回復を遅らせ、脱水や倦怠を助長します。
大切なのは・・・
- 休む:筋肉と血管の修復を促す
- 動かす:ストレッチや歩行で血流を戻す
- 整える:水分と塩分をバランスよく補給する
これだけで多くの登山後のむくみは自然に改善します。
薬に頼らず、“体の流れを整える”ことこそが、登山者にとって安全で確実なむくみ対策になります!
「それでも登山の度にむくんで困るよ」という方は・・・、
事前のトレーニングで体力をつけて疲労せずに登山ができる体作りを心がけましょう😁
以上です!
最後まで閲覧いただきありがとうございました!





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