登山で顔や手がむくむのはなぜ?山岳医が教える3つの病態と正しい対策

目次

はじめに:登山後の「むくみ」、気になったことはありませんか?

こんにちは!市川です!

僕の自己紹介はコチラ

循環器内科医としての病院勤務の傍らで、国際山岳医(DiMM)として以下のような活動をしています。
✔️登山者検診/登山者外来による予防・登山サポート
✔️赤岳鉱泉山岳診療所を運営
(日本で唯一冬季診療も行っている診療所)
さらに「登山をもっと安全に」をミッションとしてブログを通じて登山における医学的内容を発信しています。

市川智英

下山中に、手がパンパンに浮腫んで握れなくなった・・・。
テントで寝た翌朝、違和感を感じてスマホを見ると顔がむくんでいる・・・。

登山者の皆さんであれば、こうした経験をしたことは1度や2度ではないですよね。

✔️めちゃくちゃ困るわけではないけど、なんとなく不愉快
✔️月曜日の出勤の際に顔がむくんでいて気恥ずかしい
登山でのむくみの立ち位置はこんな感じでしょうか。

登山中の浮腫むくみの理由を考えたことありますか?

多くの人が「水分を摂りすぎた」「塩分が多かったせいだ」と思いがちですが、実はそれだけではありません。

と言うわけで、今日は「登山で浮腫むくむのはなぜ?」というテーマで語っていきます。

今回の記事でわかること!
  • なぜ登山をすると”むくむ”のか?
  • 登山中のむくみは危険のサインなのか?
  • 登山中のむくみ予防はどうすれば?
  • むくんでしまったときの対策

今回の記事では👆こんな疑問にお答えします!

結論としては、

むくみは、登山という特殊な環境に体が適応しようとする生理的反応のひとつであり、
疲労のサインです。
ほとんどの場合には危険なサインではありません。

しかし、ごく一部に高山病や電解質異常など危険な病態のサインであることもあります。

この記事では、山岳医として医学的観点を踏まえて登山中・下山後のむくみを3つの病態と7つの誘因に分けて解説します。
是非、最後まで閲覧いただき、なんとなく不愉快なむくみの世界を楽しんで下さい😁

登山中のむくむの主な病態はこの3つ

まずは登山における3つの病態生理を理解してもらった方がわかりやすいと思います。

登山中のむくみの病態は3つある

むくみが起こる原因は、以下のようにざっくりとイメージして下さい。

  • 血管壁からの体液が漏出する
    • ①血管透過性が亢進する:水道管にひび割れが起こり、水漏れする
    • ②毛細血管静水圧が上昇する:水道管が一部詰まって、他の部分の内圧が上昇→継ぎ目から水漏れする
  • 体液量が増えすぎる
    • ③体液貯留:タンクの水量が増えすぎて、水道管の内圧が上がって、継ぎ目から水漏れする

単純にいえば、例示のとおりですが、
①血管壁が痛んで、体液が漏れる
②血管内圧が上がって、体液が漏れる
③体液量が増えすぎて、組織に水分が溜まる

ということです(詳細は上図右を見て下さい)。

これら登山における様々なストレス(低酸素、運動、気温、圧迫など)による反応として起こります。
言い換えると、疲労のサインになります。

重要なポイントは、
①②は体液量は増えていないけど、血管から水分が漏れてしまう
③は体液量そのものが増えていて、組織に水が溜まる状態
という点です。

登山中のむくみの誘因7選

3つの病態だけでは直接的に登山とつなげて考えるのが難しいですよね😅
そこで登山におけるむくみを誘発する因子を7つ挙げておきます。

登山で起こる「むくみ」は、多くの場合「複数の要因」が同時に関与します。
そして、それぞれに前述の①〜③の病態がからんできます。
ここでは主な7つの誘因を解説しますが、誘因は非常にたくさんあるので、あくまで代表的なものと思って下さい。

下図に7つの誘因と3つの病態の関係を示しておきます。

① 激しい運動・筋肉痛

長時間の歩行や特に下山では「伸張性収縮」が多くなり、筋線維の微細損傷と炎症反応が起こります。
これにより毛細血管の透過性が上昇①し、血漿成分(主に水分)間質(血管外)へ漏出することでむくみが生じます

また激しい運動により、ADH(抗利尿ホルモン)やアルドステロンといったホルモンが上昇します。
これらは体内の水・Naナトリウムを貯留させる方向に働く(体液貯留③)ため、むくみやすくなります

② ストラップの締め付け

静脈が圧迫されると血液が心臓に戻りにくくなることで圧迫部位よりも末梢側の静脈圧(≒毛細血管静水圧)が上昇して、血管外に水分が漏出しやすくなります(=むくむ)。

バックパックの肩ベルトで鎖骨下静脈や腋窩リンパ系を圧迫します。
鎖骨下静脈は腕から心臓に血液を戻す本幹であるため、腕の毛細血管静水圧は上昇し、特に先端部分である手がむくむことになります。

この現象をPOTASHポターシュ(Post-ambulatory swollen hands)と呼びますが、POTASHポターシュは特に下山で起こりやすいです。

  • 持久系運動では全身の酸素需要を満たすために筋肉への血流を増加させている。
  • しかし、登山では上肢はあまり使わない。
  • 上肢の筋ポンプが働かない(筋収縮による血液を心臓に戻す働きが作用しない)
  • 静脈灌流が悪くなり、手の毛細血管静水圧が上昇する
    • 腕が心臓よりも低く重力の影響を大きく受ける(静脈灌流がさらに悪化)
    • +バックパックのストラップによる腋窩静脈の圧迫(静脈灌流がさらに悪化)

⇒腕への血流が増えているのに、手の血液は心臓に戻りにくい。

結果として、下山中に手がむくんでくることが多いのです。

✔️バックパックのベルトを緩める
✔️腕を上げる
✔️手を握るなど前腕の筋肉を使う

ことで解消されます。

③ 下山時

下山中は主に大腿四頭筋(太腿の前面の筋肉)が伸張性収縮することで、筋肉がダメージを受けるため、血管壁にもストレスがかかり血管透過性が亢進し、下肢がむくみやすくなります。

前述のとおりPOTASHによって、手先もむくみやすくなります。

伸張性収縮って何だっけ?という方はこちら👇の記事も合わせて読んでください!

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④ 高所(低酸素)

低酸素環境になるとVEGFヴェージェフ(血管内皮増殖因子)、NO(一酸化窒素)といった血管作動性物質が増加します。
これらは、毛細血管内皮のタイトジャンクションをゆるめることで、血漿成分(水分)が血管外に漏出しやすくなります。
つまり、「血管透過性が亢進する①」ということですね。

さらに高所では交感神経亢進(緊張状態になる)+肺血管収縮が生じることで、末梢の血流も増加します。
したがって、毛細血管静水圧も上昇②しやすくなるので、血管外に水分が漏れやすくなります。

コラム:高所ではアルドステロンが増える?減る?

このコラムは趣味の世界なので、興味がある人だけ読んでください😅

上記のように高所でむくむ理由は主に血管側の問題①②であり、体液貯留③は主因ではありません
しかし、昔から「高所ではアルドステロン(体液貯留ホルモン)が増加するので、むくむ」という通説もあります。

高所でのアルドステロンについては見解が分かれています。
一般的に、高所ではRAAS・アルドステロンは低下します。
これにより尿量が増加するため、血液が濃縮されて、低酸素環境下での酸素運搬効率を高めることができます。

一方で、超高所や激しい運動を伴うケースではアルドステロン分泌が亢進する(尿が減って、体液貯留する?)というケースも報告されています。

2022年に出されたレビュー論文(高所・低酸素環境が体液・電解質調節に及ぼす影響を調査)では、
RAAS/アルドステロンの反応は、曝露期間・高度・運動/ストレス併用・個人適応差などにより大きく異なる。
短期高所曝露ではむしろアルドステロン低下傾向が多数報告されている(数週間以上の長期曝露ではアルドステロン分泌が亢進するという記載もあり)。
Wang SY, et al. Front. Physiol. 2022; 13: 969456. PMID: 36338473 

⑤ 高温環境

つまり、暑い日の方がむくみやすいと言うことですね。
別にこれはいわゆる「熱中症」でなくても起こる現象です。

暑熱環境では皮膚血管が拡張し、熱放散を優先するために静脈還流が低下します。
この結果、毛細血管静水圧が上昇する②ことで、血管外に水分が漏れやすくなります。

それ以外にも、発汗によるNaナトリウム喪失を補う適応として、アルドステロン分泌が亢進することで、Naナトリウム再吸収(≒体液貯留③)方向に働きますが、そもそも水分喪失した結果の反応なので、むくみに対する寄与は少ないです。

⑥ 過剰な水分摂取・低Na血症(EAH)

水分管理マニュアル」の記事でも解説しましたが、一部のアスリートや登山者のなかには運動中に水分過剰相対的な低Naナトリウム状態になる方が報告されています。
誤解してほしくないのは、登山者の多くは脱水であり、過剰な水分摂取で問題になることの方が少数派です。

しかし、

確かに人体には運動中・・・には低Na状態になりやすい≒むくみやすいメカニズムがあります。

EAH:運動誘発性低ナトリウム血症とは?

通常は水だけを大量に摂取しても、尿として排出されるだけで、希釈性低Na血症となることはありません。
しかし、運動中には不適切にADH(抗利尿ホルモン)が分泌されて、尿が出づらくなります
その結果として、たくさん水分を摂り過ぎると血液が希釈されて、低Naナトリウム血症になってしまいます。
症候性のEAHでは頭痛・嘔吐・意識障害といった症状が出現し、死亡例も報告されています。

EAH(運動誘発性低Na血症)の場合には、体液貯留③によるむくみも出やすいですがそれよりも意識障害の方が問題になります。
頻度は少ないですが、是非覚えておいてください。

EAHについてもう少し詳しく知りたいという方は以下の記事も是非👇

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⑦ 脱水

脱水のイメージとしては「カラカラ」であり、むくみの反対では?と思いますよね。

脱水は一見「むくまない」印象ですが、病態生理的には、脱水に対する生体防御反応としてADH・アルドステロンの過剰分泌により、体液を保持する③方向に作用します。

そうはいっても、相対的に水分が少ないので、脱水単独ではむくみません
登山中に脱水になった後に、下山後にたくさん水を飲むことによって水分保持しやすい体質になっているためむくみやすくなります

下山後の水分補給時にも適正な電解質が入った飲料の方が血管外への漏出が抑えられ、むくみが出にくくなります。

おまけ:女性はむくみやすい?

若年女性は月経周期によって体内のホルモン状況が大きく変化するため、浮腫(=むくみ)に関しても月経周期の影響を大きく受けます

月経直前がプロゲステロンエストロゲンといったホルモンが最大になります。
いずれのホルモンも体液貯留③に働くことから、月経直前が最もむくみやすい時期になります。

その他、
✔️筋肉量が少ないため、筋ポンプ効果(静脈灌流の促進)が弱い
✔️体力が男性に比べて相対的に低いため、一緒に登山をすると激しい運動になりやすい。
✔️トイレの関係で水分摂取量が少ない
といったことも、指摘されてはいますが、影響としてはさほど大きくないと考えます。

むくむのは危険信号?

むくみは危険信号なのでしょうか?

基本的には生理現象の範囲内疲労のサインであり、心配は不要です。
休息、軽いマッサージなどで数時間〜数日で改善します。

しかし、ごく一部に危険な浮腫もあります

浮腫+以下のような症状がみられたら、これらは全て命に関わりますので要注意です

むくみを起こさないための予防策

1. 適切な登高ペースを守る

過度な疲労はRAAS/ADHといった体液貯留ホルモンを分泌させたり、筋損傷を助長してむくみやすくなります。
余裕を持って登ることでむくみにくくなります。

2. 水分・電解質をバランスよく

  • 脱水も過剰水分もむくみの原因になります。
  • 水分補給の目安は脱水量の70〜80%程度
    脱水量=5×体重×時間の7〜8割を登山中に摂取するように心がけましょう。
  • 水分だけではなく塩分補給も必要です。しっかり行動食を食べることで塩分も補えます
  • 水だけの過剰摂取はEAH(運動誘発性低ナトリウム血症)を招くのでNG

3. 行動食を定期的に摂る

  • エネルギー不足は筋損傷・代謝性疲労を悪化させ、RAASを刺激し、むくみやすい状況になります。
  • 行動食を摂ることで塩分補給にもなります。
  • 「炭水化物を取らないダイエット登山」はむくみやすく、回復も遅れます。

4. ストラップを適宜調整する

手のむくみ(POTASHポターシュ)はショルダーストラップによる静脈圧迫+腕の下垂で起こります。
ストラップをたまには緩めて、定期的に腕を上げる、グーパー運動を行いましょう。

5. ストックの活用

  • ストックを使うことで腕が自然に上がり、筋ポンプが働くため、手のむくみを軽減できます。
  • 下山時の衝撃吸収にもなり、下肢の筋肉痛・浮腫予防にも有効です。

6. 高山ではゆっくり順応する

高所ではゆっくりと順応することで、血管透過性亢進①毛細血管静水圧の上昇②が抑えられ、むくみにくくなります。

7. トレーニングで基礎体力・筋持久力を高めておく

持久系トレーニングをすることで・・・
✔️毛細血管密度の上昇:末梢循環の改善
✔️循環血漿量の増加(相対的にホルモンの影響が少なくなる)
✔️ホルモンバランスの安定化

筋持久力トレーニングをすることで・・・
✔️筋ポンプ機能の強化
✔️伸張性収縮負荷に対する耐性向上

上記結果として、むくみにくい体質になることができます。

💧むくんでしまった後の解消法

こんなことを言ってしまっては元も子もないですが、登山中のむくみは「疲労のサイン」なので疲労が回復すれば自然とむくみも解消します。

それでも「少しでも早くむくみを解消したい」という場合には下記の方法を試してみて下さい。

 軽いマッサージ・軽い運動で静脈灌流を促進

徒手リンパマッサージは有効です。
強く揉むようなマッサージではなく、優しくなでるように行います。

足の場合には足先から太腿に向かって静脈やリンパの流れを体幹部に戻していくイメージです。
詳細はYoutubeなどをご参照ください。

軽い運動・体操も筋ポンプを介して静脈灌流を促すため効果的です。

水分・電解質を適切に補給する

登山中には水分・電解質(主に塩分)を失っている状態のことが多いです。
下山後には適切に補給して下さい。

下山後はADH(抗利尿ホルモン)が不適切に分泌されており、尿が出ずらく、体に水分をため込もうとしている状態です。
そこで水分だけをたくさん摂ると、むくみやすくなるので、電解質も適切に摂ることが大切です。

着圧ソックス

着圧ソックするによる足の浮腫改善は臨床的に実証されています。
登山後の休息に併用することで、むくみが早く解消する可能性が高いです。

入浴:冷水浴と交代浴がオススメ

冷水浴や交代浴(冷水浴と温水浴を交互に)は筋損傷の軽減に有用だとする報告があります。
Matos F, et al. J Strength Cond Res. 2018; 32(3): 756-763.
Vaile JM, et al. J Strength Cond Res. 2007; 21(3):697-702.

また、頸部まで水中に浸かることで・・・
→中心血流量が増加
→RAAS/ADHが抑制
→ナトリウム利尿・水利尿を誘発
体液を体外に出してむくみ解消を促すことができるとされています。

就寝時にむくんでいる部分を高くする

重力の力を借りて静脈灌流を促して、むくみを減らすことができます。

  • 足がむくんでいるなら、足を上げて寝る
  • 顔がむくんでいるなら、上半身を少し起こして寝る

足も顔もむくんでいたら・・・、そのときはお好きなように😅

その他

巷ではカリウムの多い食品クエン酸の摂取が浮腫改善を促すと言われています。
これらは理論的には効果がある可能性がありますが、僕が探した限りでは浮腫に効果があるという研究結果はなく、補助的な使用と考えましょう。

多くの方にとっては実施しても問題はありませんが、腎機能障害がある方はカリウムが高くなりやすいので、主治医と相談しましょう。

🩺まとめ

まとめです!

登山中の浮腫は多くが生理的反応で、身体の防御・適応の一部として発生します。
したがって、多少不快ではあるものの、大きな問題に繋がることはありません。

しかし、
以下のような登山者としての基本を抑えておくことで登山中の浮腫はかなり軽減できます

  • 適切な登高ペースで登山をする
  • こまめな水分/塩分補給
  • 適切な行動食の摂取
  • 高所登山ではゆっくりと順応する
  • ストックを使用する
  • ショルダーストラップを調整する
  • 事前にトレーニングで基礎体力・筋持久力を高めておく

「むくみやすい体質だから」と諦めず、
登山を続ける中で“むくみにくい登山スタイル”を見つけていくことが大切です。

是非、しっかり学んで実践して、
月曜日の朝に出勤したときに「顔どうしたの・・・」と心配されないようにしましょう😁

最後まで閲覧いただきありがとうございました!

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