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はじめに
こんにちは!市川です!
僕の自己紹介はコチラ

循環器内科医としての病院勤務の傍らで、国際山岳医(DiMM)として以下のような活動をしています。
✔️登山者検診/登山者外来による予防・登山サポート
✔️赤岳鉱泉山岳診療所を運営(日本で唯一冬季診療も行っている診療所)
さらに「登山をもっと安全に」をミッションとしてブログを通じて登山における医学的内容を発信しています。
市川智英
【心肺蘇生の基本】
速やかに心停止と判断し、絶え間のない心臓マッサージを継続し、できるだけ早くAEDで電気ショックをかける
上記が通常の心肺停止に対して僕らが叩き込まれる”心肺蘇生法”です。
この救命の常識が“低体温症心肺停止”においては”誤り”になることがあります。
通常の心停止が「時間経過とともに死に近づく」のに対し、
低体温症による心停止は「低温により死の進行を遅らせている」状態です。
低体温状態にある体では、治療の優先順位が180°逆転します。
- 薬剤は「使用しない」
- 電気ショックは「深追いしない」
- 心臓マッサージは絶え間なくやる必要はない
- そして、どんなに時間がかかっても「絶対に諦めない」
2025年10月に
- ERC(European Resuscitation Council:欧州蘇生協議会)
- AHA(American Heart Association:アメリカ心臓協会)
という世界の2大心肺蘇生ガイドラインが改訂されました。
これらに加えて、
- WMS(Wilderness Medical Society)低体温症ガイドライン2019
- ICAR MedComの雪崩埋没者管理レコメンデーション2023
を網羅して、
2026年2月時点での最新の低体温症心肺停止に対する心肺蘇生アルゴリズムを考えてみたいと思います。
※WMS:Wilderness Medical Society
※ICAR MedCom:International Commission for Alpine Rescue, Medical Commission ;国際山岳救助委員会

先日、低体温症心肺停止症例に対して数時間にもおよぶ心肺蘇生を行い、病院まで繋いだものの救えなかった事例がありました。
そこから学んだ『ガイドラインの行間』も含めて最新の世界標準治療を全て解説します。
少しでも登山中の低体温症で亡くなる方を減らしたい。
その想いでこの記事を書いているので、今回は「山岳診療所などを想定した医療従事者向け」になっています。
できることを全て総動員しないと救命できません。
そういう意味では、一般登山者の方には今回の記事は、少しわかりにくい・とっつきづらいこともあるかもしれませんが、一般登山者の協力なくしては救命できません(総動員のなかには一般登山者・同行者も含まれます!)。
一般登山者であっても重要なエッセンスが入っていますので、是非最後まで閲覧いただければ幸いです。
参考文献(本記事の根拠)
本記事は、以下の世界的な主要ガイドラインを統合・整理しています。
- ERC ガイドライン2025 特殊な環境における蘇生(欧州蘇生協議会)
- AHA ガイドライン2025 特殊な環境における蘇生(アメリカ心臓協会)
- WMS 低体温症ガイドライン 2019
- ICAR MedCom 雪崩埋没者管理の推奨2023 (国際山岳救助委員会)
これらを横断的に比較し、山岳現場で最も適切とされる対応策をまとめています。
上記以外にも必要な文献を読みあさって、さらには僕自身の経験則も踏まえた上でこの記事を作成しました。
全部リンクを貼ってありますので、是非、原本のガイドラインも当たっていただけると勉強になると思います。
「こんなにたくさん読めないよ」という方は、どれか1つだけ選ぶなら、ERCガイドライン2025が一番まとまっており、かつ具体的なのでオススメです。
結論:低体温症心肺停止であなたがやるべき最も重要な3つのこと
救助者自身の安全が確保されていることが前提ですが、その前提が確保できていれば、やることは3つだけです。
《低体温症CPAでやるべき3つのこと》
- 質の高い心肺蘇生(CPR)
- 病院までの搬送時間をできるだけ短くする
- 病院にたどり着くまで(救助隊に引き継ぐまで)諦めない
なぜこの3つが重要なのか?
最新のガイドラインも参照しつつ解説していきます!
低体温症CPAに対する救命は本当に大変です。
「諦めない」ためには「なぜ?」を知っておかないと無理です。
途中で心が折れます。
是非、「なぜ?」の部分も理解してもらえると、最後まで命を助けるために頑張り続けられるはずです!
低体温症心肺蘇生における『パラダイムシフト』が起きる3つの常識
低体温症による心肺停止の傷病者に対して、通常のCPR(心肺蘇生)と同じことをしてはいけません。
生理学的反応が全く異なるからです。
通常の心停止が「時間との戦い」であるのに対し、低体温症の心停止は「生理学的な持久戦」です。
この根本的な「考え方の違い」を3つのポイントで整理します


①時間の概念の違い
一般的な心肺停止では、1分間で7〜10%救命率が低下するとされています。
つまり、何もしなければ10分ほどでほぼ死亡は確定します。
したがって、時間との闘いになります。
いかに早く診断し、CPR(心肺蘇生)を開始するか、そして、いかに早くROSC(心拍再開)させるかが重要になります。
一方で、低体温症の場合には低温により脳の代謝が低下します。
したがって、かなりの長時間心肺停止状態であっても後遺症なしに蘇生できるケースが散見されます。
低体温症心肺停止においては、
「No one is dead until warm and dead」
という格言があります。
直訳すると「温まって死ぬまで、死んでいない」=「低体温状態のままで死亡判断してはいけない」ということです。
低体温症心肺停止を復温させる(体温を戻す)ための最も効果的な方法は、ECMO(人工心肺)です。
ECMOとはコロナで一役有名になった経皮的人工心肺のことで、
- “全身の循環と酸素化”が保たれ、
- “血液を介して全身を温める”ことができます
したがって、「低体温症心肺停止の最初のゴールはECMO可能な病院へ搬送すること」となります。




脈の確認
【通常CPA】
10秒以内に判断
- CPAであれば1秒でも早くCPRを開始するため
【低体温症CPA】
1分かけて確認する
- 低体温状態では極度の徐脈(1分間に数回しか脈がない)になりやすい。
- 心臓マッサージなどの刺激が加わると心室細動を起こして心停止に至るため慎重な判断が必要。
※CPA:心肺停止、CPR:心肺蘇生
脳保護
【通常CPA】
心停止直後から脳細胞の壊死が始まる
心臓マッサージは脳に血流をおくって脳を保護するために行う
通常は・・・
- 何もなければ10分で救命不可能
- CPRをしても30分程度で正常心拍に戻らなければ救命不可能
【低体温症CPA】
低温により脳の代謝が低下し、自然と脳保護がされている
- 数時間の心停止状態からでも後遺症なく蘇生できるケースがある。
※CPA:心肺停止、CPR:心肺蘇生
②治療戦略の違い
低体温状態では、薬剤も除細動(電気ショック)も効果がないことが多いため、漫然と使用せず、復温を優先させる。
【通常CPA】
- アドレナリン(昇圧剤)は3〜5分ごとに必要なだけ使用
- 除細動(電気ショック)は適応があれば正常心拍に戻るまで2分おきに施行(回数制限なし)
【低体温症CPA】
深部体温30℃未満では・・・
- 薬剤は使用しない
- 除細動は最大3回まで
- それで蘇生できなければ復温を優先する
※復温:体温を回復させること
③搬送の優先順位(初期目標の違い)
【通常CPA】
- できるかぎり早期の心拍再開(ROSC)を目指す
- 絶え間ないCPRが原則
- 少しでも脳に血流をおくって脳を保護するため
【低体温症CPA】
- 初回除細動(電気ショック)でROSCしなければ現場では心拍再開をできないと割り切る
- 初期目標を「病院でのECMO」に切り替える
- そのためにはCPRを一時中断してでも搬送優先
※CPA:心肺停止、ROSC:正常心拍再開、CPR:心肺蘇生、ECMO:経皮的人工心肺
それでは各項目をきちんと理解するためにもう少し詳しく掘り下げていきます!
①間欠的CPRとは?〜蘇生か搬送か〜


前述のとおり、低体温症CPAに対して初回の除細動(電気ショック)で蘇生できなかった場合・・・
目標を「復温する」=「病院でECMO(人工心肺)を回す」に変更します。
低体温症であっても、代謝していないわけではありません。
脳を含めた全身臓器に血液(酸素)を供給するためには、質の高い絶え間ないCPR(心肺蘇生)が重要です。
しかし、狭い登山道やソリを使用しての搬送など、現実的には「絶え間ないCPR」と「できるだけ早期に病院へ搬送」は同時に実現できないことがほとんどです。
したがって、
「病院への搬送を優先するために間欠的CPR(≒CPRの一時中断)を許容する」と考えます。
- 深部体温<28℃もしくは不明の場合・・・
- 5分CPR/5分搬送を交互に実施(5分間CPRを中断)が可能
- 深部体温<20℃の場合
- 5分CPR/10分搬送を交互に実施(10分間CPRを中断)が可能



でも、どうやって山中で「深部体温<28℃」と判断するの?



低体温症CPAは“心室細動という致死的不整脈が原因”です。
心室細動は・・・
深部体温≦32℃で発症リスクが上がり始め・・・
深部体温<28℃で極端にリスクが上がります
つまり、低体温症心肺停止になる人は体温<28℃と考えて対応しても差し支えありません。


間欠的CPRの医学的根拠 (気になる方は▼をタップ)
間欠的CPRの医学的根拠は大きく分けて2つあります。
《代謝低下》
体温が6〜7℃低下するごとに代謝率(酸素消費量)は約50%低下するとされています。
- 28℃では常温の約50%(脳の酸素消費量は約 35% に低下)
- 20℃では約20-30%程度の代謝に低下
常温では脳は3〜4分までは心停止に耐えられます。
したがって、体温28℃であれば、理論的には10〜12分耐えられる
→安全マージンを50%設けて「5分間はCPR休止可能」と設定しています。
《心臓血管外科手術での実績》
心臓血管外科手術において、18℃〜20℃まで冷却すれば、人工心肺を止めても30〜40分間は神経学的後遺症なく循環停止が可能であることが実証されています。
これはDHCA(Deep hypothermic circulatory arrest)と言って、弓部大動脈手術などの際に人工心肺を停止させて手術する必要があるため、低体温状態にして手術を行っています。
現実的に5分間のCPRを搬送中にできるのか?
低体温症CPAの一次目標は「復温すること」≒「病院でのECMOに繋ぐこと」です。
そのための手段として、間欠的CPR(5分間のCPR+5〜10分間の搬送)を挙げました。
しかし、現実的に搬送とCPRは両立できるのでしょうか?
低体温症の治療の基本が保温・加温であることは言うまでもありません。
したがって、低体温症ラッピング(ブリトー)と呼ばれる方法で傷病者を保温・加温して搬送するのが一般的です。


- 3層構造(効率的な保温)
- 内層(蒸散遮断層):防水かつ透過性が低いもので包むことで、VBL効果を期待。汗や失禁などで中層(保温層)を濡らさないようにする。
- 中層(保温層):ダウン、シュラフなどで包む。背面はスリーピングパッドなどで遮断。
- 外層(防水層):雪・雨・風を防ぐ
- 熱源を入れる(加温)
- 体幹部(特に上半身)の加温を行う
- 前胸部・両腋窩などにヒートパック(湯たんぽ)を入れる


しかし、この低体温症ラッピング状態では心臓マッサージを行っても、前胸部のヒートパックや保温層が緩衝剤となってしまい効果が十分得られません。
そこで・・・、「低体温症ラッピング(CPR version)」を提案します。


低体温ラッピング(CPR version)では簡単に胸部にアクセスできて、必要に応じてCPRが実施できるようにします。
- 前胸部へのヒートパックはおかない(両腋窩±腹部)
- 蒸気遮断層は薄いので上からCPR可能
- 保温層のシュラフは胸部だけ開けられるようにシュラフのジッパーは閉めない
- 前胸部にダウンジャケットなどを単体で置いて保温効果up→CPRの際にはどかして行う
- 最外層のブルーシートはバックル固定などすぐに外せるようにしておく
上記の様な方法を行えば、
- 保温・加温しながらの搬送
- 5〜10分おきに5分間のCPR(心肺蘇生)を行う
というのがある程度共存できる可能性はあるのかなと考えています。
しかし、実際にこの方法で搬送しながらCPR(心肺蘇生)を行った経験はまだありません。
この方法が使えるのかどうかは山岳救助隊とともに今後検証していきたいと思います。
皆さんも「こんな方法がいいのでは?」と言うアイディアがあれば、是非コメントをお願いします!
②低体温症心肺停止における電気ショックの効果



【Doctor’s Opinion】
現場では「1〜3回まで」と状況に応じて回数を決めて、無効なら搬送を優先に考えるのが現実的。
通常のCPA(心肺停止)であれば、”速やかな電気的除細動(電気ショック)≒AEDの使用”が生死を分けます。
1回の除細動で蘇生できなくても、ショック適応があれば2分おきに何度でもショックを繰り返します。
しかし、低体温状態の心筋では・・・
- 電気的除細動(電気ショック)に対する反応が低下して効きづらい
- 仮に正常心拍に戻っても、すぐに心室細動が再発(≒心停止)してしまう
- 除細動を繰り返すことで心筋障害を来す
- 除細動のために心臓マッサージが中断される
などの理由で各種ガイドラインで除細動回数に制限があります。
深部体温<30℃未満なら・・・
ERCガイドライン2025:3回まで
AHAガイドライン2025:1回のみ
WMSガイドライン2019:1回のみ
これで正常心拍に戻らなければ、“体温30℃以上に復温を優先する”



前述の通り、低体温症による心室細動は・・・
深部体温≦32℃で発症リスクが上がり始め・・・
深部体温<28℃で極端にリスクが上がります
つまり、電気ショックを1回かけて正常心拍に戻らないような低体温症CPAは深部体温<28℃と判断・対応して問題ありません。
「除細動は最大で3回まで」です。
救急医療サービス(EMS)で確認された低体温を伴う院外心肺停止症例1,575件を、日本の全国データベースから抽出し検証した論文があります。
その結果、低体温性院外心肺停止では・・・
- ショック適応型初期リズム(=VT/VF)は神経学的に良好な転帰と関連
- 病院前除細動をしたかどうかで予後に差はなかった
Ushimoto T, et al. Medicine (Baltim). 2023;102:e33618.
※VT/VF=心室頻拍/心室細動



そのぐらい低体温症CPAに対しては除細動(電気ショック)は効果が乏しいんですね。
逆に言えば、その場にAEDがなくても救命を諦める理由にはならないと言うことです。
③低体温症CPAではアドレナリン(薬剤)は使えない⁈



蘇生で使う「アドレナリン」って何ですか?



心臓というエンジンを無理やり回す「起爆剤」のような薬です。
アドレナリンは、
- 強力な血管収縮作用(α1受容体)
- 強力な心臓刺激作用(β1受容体)
- 心収縮力up
- 心拍数up
- 気管支拡張・血管拡張作用(α2受容体):アナフィラキシー時に重要
を持った薬剤です。
“アナフィラキシーで使用するエピペン”も中身はアドレナリンなので登山者にとってはそっちの方が馴染みがあるかもしれません。
なかでも心肺停止時に効果を発揮するのが“強力な血管収縮作用”と“強力な心臓刺激作用”です。
この2つの作用で無理矢理心臓を動かして、血圧を維持するというまさに”起爆剤”のような薬剤です。
低体温では「猛毒」に変わるリスクがある
低体温症の際には、最強の血管収縮剤が逆に「時限爆弾」のように作用してしまいます。
- 理由①:低体温状態では薬剤の反応が得られない
- 体温が30℃を下回ると、体は薬を分解・吸収できなくなります(代謝の停止)。
- 理由②:温まった瞬間に「暴発」する
- 効かないからといって何本も使用してしまうと、薬は分解されずに体内に溜まり続けます。
そして、病院で復温して代謝が回復した際に、溜まっていた大量のアドレナリンが一気に効果を発揮して、心臓を過剰に刺激することで再び心停止させてしまうリスクがあります(Stone Heart=過収縮状態で石のように固まってしまう)。
- 効かないからといって何本も使用してしまうと、薬は分解されずに体内に溜まり続けます。
したがって、各種ガイドラインでの低体温症CPAに対するアドレナリンの扱いは以下の通りです。
深部体温<30℃なら・・・
- AHA2025:体温≧30℃になるまでアドレナリンは見送り
- ERC2025:体温≧30℃になるまでアドレナリンは見送り
- すぐにECMOが使えない場合にはアドレナリン1mgを1回だけ投与してみる
- WMS2019:体温≧30℃になるまでアドレナリンは見送り
深部体温30〜35℃であれば・・・
- AHA2025:明確な記載なし
- ERC2025:投与間隔を6〜10分おきに延長
- WMS2019:投与間隔を2倍に延長



深部体温<30℃なら・・・
基本アドレナリンは投与しない
深部体温30〜35℃の場合には・・・
投与間隔は2倍=4分→8分に延長と覚えましょう。
「山の中で深部体温なんて測れないよ・・・」と言う疑問に対する答えは、繰り返しなりますが・・・
低体温症心肺停止になる人は体温<28℃と考えて対応しても差し支えありません。
つまり、「原則アドレナリンは投与しない or 1mgだけ試してみる」が妥当です。
低体温症CPA:現場蘇生判断アルゴリズム
ERCガイドライン2025、AHAガイドライン2025、WMSガイドライン2019、ICAR Medcom2023
これらのガイドライン、勧告のなかで低体温症心肺停止に対する判断・処置として推奨されている事項をまとめて、現場で使えるアルゴリズムを独自に作成しました👇


いきなり上図をみても「・・・」となりそうなので、ポイントを解説します。
今回の記事では上記アルゴリズムの1〜3+CPR開始までを中心に解説します。
「4.HOPEスコアによる予後判定」、「5.CPR時間≧6時間」については次回記事で詳細解説します。
蘇生を開始すべきなのか?
まずは蘇生を開始しない条件として、以下の3つが各種ガイドラインで挙げられています。
- 救助者の安全が確保できない場合
- 明らかに致死的外傷がある場合
- 体が完全に凍結している場合
さらにICAR Medcom2023やERC2025では、雪崩埋没の場合には、
- 以下の3つ全てを満たす場合には”蘇生を行わない”ことを推奨しています。
- 雪崩埋没時間>60分
- 気道閉塞
- 心静止(Asystole)
これら4つの条件をアルゴリズムでは、現場での流れに合わせて、
- 見て判断
- 触れて判断
- 窒息の有無で判断
この3つで“心肺蘇生(CPR)を開始すべきなのか”どうかを判断しています。



なぜ「雪崩埋没>60分+気道閉塞+心静止」の場合には、CPRをしないの?
低体温症なら「温まるまでは、死んでない」んじゃないの?



これは“窒息による心停止”の可能性が高く、その場合には低体温症CPAの概念ではなく、通常のCPAとして対応すべきだからです。
ICAR Medcom2023によると、
雪崩の死因は、窒息:65〜100%、外傷:5〜29%、低体温症:0〜4%
とされており、そもそも雪崩埋没による心肺停止では” 低体温症が原因であることが少ない”んです。
山の中で心静止(Asystole)と判断できるのか? (気になる方は▼をタップ)
ICAR Medcom2023やERC2025では、「雪崩埋没時間>60分の場合には”すみやかに心電図モニタをつける”」と書かれています。
さらりと書かれていますが、「雪崩埋没現場で心電図モニタって😅」と思いますよね。
そこでオススメなのは「Checkmeチェックミー」です。


Checkme(チェックミー)は携帯型心電計と呼ばれる医療機器ですが、誰でも購入可能です。
メリットとしては、誘導コード+電極シールを追加購入することで、病院の心電図モニタと同様に体に装着できるため、“意識がない状態でも心電図計測ができる”という点です。
モデルは4モデルありますが、単純に心室細動(VF)なのか心静止(Asystole)なのかを判断するだけなら、最安モデルのCheckme ECG ADVで十分です。
ただし、30秒しか記録できません。
病院モニタのように持続的なリアルタイムモニタをするためには、最上位モデルのCheckme ProXであれば、心電図+酸素飽和度を持続的にモニタリング可能です。
これらの機器があれば、天候が安定している山中や山岳診療所内であれば十分に使用可能です。
\ 最安モデル /
\ 意識がなくても心電図がとれる /
\ 意識がなくても心電図がとれる /
\ 最上位モデル:持続モニタ可能! /
Asystoleって何?っていう方はコチラの記事をご参照下さい👇


心肺停止の確認
①見て、②触れて、③窒息の有無を評価して、「純粋な低体温症であり、窒息はない」と判断した場合には・・・
“1分かけて”「意識」→「呼吸」→「脈」の確認を行います。
このときに大きな刺激を加えないようにしましょう。
低体温症では全身の代謝が低下しており、呼吸も脈もとても弱く遅くなっています。
そのような状態で大きな刺激を加えると、“心室細動”という致死的不整脈を起こし、心肺停止状態(CPA)となってしまいます。通常のCPAと異なり、ゆっくりじっくり確認します。
一方で、雪崩埋没から60分以内に掘り出した場合
意識がなければ窒息の可能性が高く、気道確保した上で呼吸の確認を“10秒以内”に行います。
なお、以下の場合には“心停止していなくてもECMO可能な施設へ搬送することが望ましい”とされています(ERCガイドライン2025)。
- 心拍数<45回/分
- 深部体温28℃未満≒意識なし
なぜなら上記傷病者は搬送中に心肺停止状態になる可能性が高いからです。
CPR(心肺蘇生)の開始
最も重要なポイントは「ECMOが可能な医療機関に搬送して、全身循環と復温を同時に行う」ことです。
低体温症CPAでは、その場で蘇生できる可能性はかなり低いです。
したがって、すべては“ECMOが使える病院に搬送する”を最優先に考えます。
そのための方法論として、
- 間欠的CPR:5分CPRと5〜10分休止(搬送)を交互に行う
- AED(電気的除細動)はショック3回まで
- アドレナリンは投与しない
があると思ってもらっても過言ではありません。
心肺停止(CPA)中の山中・山小屋での復温について
山中や山小屋などでは心肺停止状態のままで復温(保温・加温)しようと思っても効果はかなり限局的です。
各種ガイドライン上でも、搬送中の保温・隔離については明確に推奨されています。
“これ以上冷やすな”ということですね。
ただし、加温(ヒートパックなど)についてはあまり推奨はされていません。
やってはいけないことはないのですが、効果が限定的であるため、それよりも「質の高い心臓マッサージや搬送を優先すべき」と言う考え方です。
余力があれば実施しましょうという感じですね。
HOPEスコアによる予後予測
HOPEスコアとは端的に説明すると「病着時に”ECMOを実施して救命するかどうか”を判断するためのスコア」です。
あくまで病院で実施する予後予測スコアですので、本来は山小屋や山岳診療所で使うために作られたものではありません。
しかし、簡便に予測生存率を算出できるため、応用することで傷病者・救助者双方を守るツールとして使えるのではないかと導入しました。
反論もあるかと思いますが、詳細は次回記事をご参照下さい🙇
まとめ:生存率を上げるために
まとめです!
今回も長くなってしまいました😅
2025年10月、世界の2大蘇生ガイドライン(ERC/AHA)が同時に改訂されました。
今回の記事では、上記ガイドラインに加えて、WMS低体温症ガイドライン2019、ICAR Medcom雪崩埋没者管理の推奨2023も参考にして、それぞれいいとこどりで、まとめました😊
低体温症心肺停止の基本は、
- No one is dead until warm and dead(温まるまで死んでない)
- 温めるためにいかに早くECMOにつなぐか
この2点です。
そのために僕らが山中でできることは、冒頭でも述べた以下の3つです。
《低体温症CPAでやるべき3つのこと》
- 質の高い心肺蘇生(CPR)
- 病院までの搬送時間をできるだけ短くする
- 病院にたどり着くまで(救助隊に引き継ぐまで)諦めない
この3つを実現するための具体的な方法はこちら👇にまとめました。
ぜひ保存して持ち歩いてもらえれば幸いです。
No one is dead until warm and dead(温まるまでは死んでない)
“言うは易く行うは難し”です。
病院へ搬送するまで数時間にわたって心臓マッサージを継続するのは並大抵の根性ではできません。
ましてや、それを搬送しながら行うというのは本当に大変です。
そのために“なぜ必要なのか”を具体的に知っておくことで、救命の活力に繋がるはずです。
正しい知識を持つことが、仲間と自分自身の命を守る最大の備えになります。
この記事によって1人でも救われる人が出てくれれば幸いです。
以上です!最後まで閲覧いただきありがとうございました!
次回は“低体温症心肺停止の現実と限界”について記事を書きます。
今回はある意味での”理想”が書かれていますが、“現実”と”限界”も把握しておくべきです。
次回も乞うご期待!



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