はじめに
こんにちは!市川です!
僕の自己紹介はコチラ

循環器内科医としての病院勤務の傍らで、国際山岳医(DiMM)として以下のような活動をしています。
✔️登山者検診/登山者外来による予防・登山サポート
✔️赤岳鉱泉山岳診療所を運営(日本で唯一冬季診療も行っている診療所)
さらに「医療から登山をもっと安全に」をミッションとしてブログを通じて登山における医学的内容を発信しています。
2026年5月末〜Tozan Medical Officeを立ち上げました。
まずはTozan Medical Consulting〜登山×医療相談〜という名の登山者に対する個別のオンライン面談を開始しています。興味がある方はぜひこちらのリンクから詳細をご覧ください😊
今日のテーマはこちら👇
「夏山の落雷」です。
梅雨が明けると、いよいよ本格的な夏山シーズン。
でも、夏山の稜線には低体温症と並ぶもう一つの大きな脅威が待っています。
それが落雷です。
1967年8月1日、西穂高岳の稜線で下山中だった高校生の登山隊が落雷に遭い、11名が死亡、12名が重軽傷という、日本山岳史に残る集団落雷遭難が起きました(井村, 天気. 1967)。
逃げ場のない稜線で雷雲に追いつかれることが、いかに恐ろしいか。それを残酷に物語る事故です。
そして落雷は、決して”昔の話”でも”運の悪い人の話”でもありません。
気象庁のデータでも、被害は夏に集中しています。
落雷被害は例年7〜8月にかけて多く発生します。
2005〜2017年の落雷害1,540件のうち、約30%(468件)が8月に起きていました。

特に太平洋側では断然夏に発生します。
しかし、上図のとおり日本海側では夏季の落雷被害と冬季の落雷被害にそこまで大きな差がないんですよね。
余談ですが、このグラフをみて、富山に住んでいたころ、真冬に雷が鳴った後に豪雪が降るという経験を思い出しました。
太平洋側で生まれ育った僕は当時「夏みたいだな」と思った記憶があります。
上記の通り、北アルプス北部(剱・立山、後立山連峰)では冬にも落雷がありえますが、いずれにしても圧倒的に多いのは夏季の山岳特有な事情による落雷です。
「山の落雷」だけを数えた国内統計は存在しません(市川調べ)
僕が調べた限りでは、日本には「山岳での落雷事故」だけを集計した公的な統計が、存在しなさそうです。
警察庁が毎年まとめている「山岳遭難の概況」では、遭難の原因(態様)が道迷い・滑落・転倒・転落・病気・疲労…と分類されています。ところが、この中に「落雷」という項目がありません。
つまり、山で雷に打たれても、統計上は「その他」に紛れてしまい、「年間に山で何人が被雷したのか」を正確に数える仕組みがないのです。
一方で、日本全体では統計があります。
日本では雷による死者は減少傾向にあり、1980年代の年8人前後から、2000年代には年3人前後に減っているそうです(横山, 電気設備学会誌 2008)。
実際には落雷人身事故は山岳エリアでも件数としては、決して多くありません。
でも、逃げ場のない稜線では、一度の落雷が命に直結します。
特に冒頭で挙げたような集団での落雷事故となると、山岳遭難の中でも被害は非常に甚大になります。
“めったに起きないが、起きたら重大”──
だからこそ、一人ひとりが正しい知識で備えることが、何より大切だと考えています。
落雷は、正しい知識があれば”高い確率で避けられる”災害です。
今日は山岳医として、登山者が命を守るための雷の知識を、できるだけシンプルに整理してお伝えします。
今回は落雷をテーマに以下の2部構成にして解説します。
- 第1部(今回):雷予防編
どうやって被雷をさけるか - 第2部(次回):落雷救命編
万が一落雷被害に遭遇したらどう対応すべきか
僕は医学の専門家ですが、気象の専門家ではありません。
いつものようにきちんと調査して適切な情報を皆さんにお届けするように努力していますが、今回の雷予防編に関しては気象情報がメインになるため温かい目で見ていただけると助かります😅
もし間違いがあればコメント大歓迎ですので、ぜひよろしくお願いします🙇
- 雷がどうやって人を傷つけるのか(6つの被害パターン)
- 雷を予測するための気象庁データの使い方
- つい信じてしまう「雷の常識」のウソ
- 命を守る「逃げる・隠れる・離れる」の3原則と「30-30ルール」
難しい話は抜きにして、「現場でどう動くか」に絞ってお届けします。
一緒にアップデートしていきましょう!
ちなみにフランクリン・ジャパンというサイトが雷に関して非常にわかりやすく詳細に解説しています。
正直に言えば、第1部に関してはこちらのサイトを見るだけでもいいかもしれません😅
是非参考にしてください😊
雷はどうやって人を傷つけるのか ── 6つの被害パターン
「雷の被害」と聞くと、多くの人が“頭に直接ドカンと落ちる”イメージを持っていますよね。
でも実は、直撃は雷被害のごく一部です。
👉 「直接落ちなければ大丈夫」は大間違い。
雷は近くに落ちただけでも、側撃・接触・地電流・爆風など様々な経路で人を襲います。
雷は多彩な経路で人を襲います。
まずは敵の正体を知りましょう!

【6つの落雷被害パターン(頻度順)】
| パターン | 受傷割合 | 死亡率 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 地電流(歩幅電圧障害) | 50-55% | 低い(多くは軽症) | Lightning Injuries. StatPearls, 2024 Cooper MA et al. 2008 |
| 側撃 | 30-35% | 高い (雷撃症死亡者の15%が木のそばで被災) | Cooper MA et al. 2008 J Appl Meteorol. 2005; 44(10): 1563-1573. |
| コロナ放電 (上向きストリーマ・お迎え放電) | 10-15% | ほぼ軽症 | Cooper MA et al. 2008 フランクリン・ジャパン |
| 直撃 | 3-5% | 70-80%と死亡率は非常に高い(無処置だと90%) | Cooper MA et al. 2008 フランクリン・ジャパン |
| 接触損傷 | 3-5% | 数値なし | Cooper MA et al. 2008 |
| 爆風 | — | — | Am J Forensic Med Pathol. 2012 Sep; 33(3): 222-226. |
① 直撃雷 ── 最も致命的だが、最も稀
雷が体に直接落ちるパターン。
一番イメージしやすいパターンですよね。
稜線やピークなど、周囲に高いものがない開けた場所で起こりやすいパターンですが、こちらは雷撃症全体に占める割合はわずか3〜5%と実は最も稀です。
しかしながら、直撃した際の死亡率は70〜80%(何も処置しなければ約90%)と報告されており、きわめて高いので注意が必要です(フランクリン・ジャパン)。

被雷全体での死亡率は1割程度とされています。
直撃がいかに危険かということですね。
② 側撃雷 ──「木の下で雨宿り」の落とし穴
高い木や岩・建物に落ちた雷が、すぐそばにいる人に飛び移るパターン。
人から人へと飛び移るのも注意が必要です。
雷撃症の約30〜35%と比較的多く、直撃に次いで受傷時の死亡リスクが高いとされています(フランクリン・ジャパン)。
「雨宿りで木の下に入ったら被雷した」という事故の多くがコレです。
あとで詳しく触れますが、木の下は安全どころか危険地帯とされています。
高頻度かつ死亡リスクの高さを考えると、側撃は特に注意すべき受傷パターンと言えます。
③ 地電流(歩幅電圧) ── 実は”最多”のパターン
地面に落ちた雷の電流が、地表を伝わって広がるパターン。
これが雷撃症の約50%を占め、実は最も多い被害形態とされています。


両足の間に距離があると、左右の足で電位差が生まれ、体に電流が流れ込みます(これを”歩幅電圧”といいます)。
件数は最多ですが、多くは軽症。
実際、歩幅電圧で心臓まで届く通電量は全体のごくわずか(全電流の0.4%以下)とされます(フランクリン・ジャパン)。
ただし、注意したいのは”地面に伏せている”とき。
地面との接触面が広がると、電流が心臓を通過しやすくなって致命的になります。
したがって、落雷を避けるために地面に伏せるような姿勢をするのは絶対にやめましょう。
④ 接触損傷 ── 鎖・はしごに要注意
雷が落ちた物体に触れていた人が、その物体を介して感電するパターンです。
雷撃症全体の約3〜5%と頻度は多くはありません。
登山では、鎖場の鎖、梯子などが「触れている物体」になりえます。
地面に固定され、縦に長く、高い場所に突き出した金属——
これはまさに雷が落ちやすい”避雷針”のような存在になります。
雷雲が近いとき、鎖や梯子を握ったままの通過は避けましょう。
これらに触れたまま行動するのは大きなリスクになります。
⑤ 上向きストリーマ(コロナ放電)── 軽症だが”直前サイン”
雷が落ちる直前、強い電界によって体や地物の先端から上向きに微弱な放電が起こるパターン。
被害の約10〜15%を占めます。
これ自体は軽症で済むことが多いのですが、本当に大切なのは、これが”被雷の直前サイン”になることです👇
- ⚡ 髪の毛が逆立つ
- ⚡ 肌や金属がピリピリ・チリチリする
- ⚡ ストックの先などが青白く光る・ジーッと音がする
これは「今まさに、あなたに雷が落ちようとしている」という最終警告です。
ここまで来てしまうと、もはや行動に正解はありません。
- 近くに山小屋があれば全速力で逃げ込む
- 何もなければすぐさま待避姿勢(雷しゃがみ)をとる
➜現実的にはこの折衷案である、「なるべく姿勢を低くして、安全な場所に移動を続ける」ということになるでしょうか。
コレぐらいしかできることはおそらくないでしょう。
従来、推奨されてきた「雷しゃがみ」という待避姿勢があります。


これまでフランクリン・ジャパンを始めとして多くの機関が待避姿勢としての「雷しゃがみ」を推奨してきました。しかし、2026年1月にフランクリン・ジャパンは、近年の研究結果に基づき、現在は「一刻も早い建物内への避難」を最優先とし、雷しゃがみを推奨しない方針へ見直ししています。
(※「雷しゃがみ」に関する推奨方針の見直しについての詳細はこちら)
米国国立気象局(NWS)Lightning Safety では、すでに2008年時点で「雷しゃがみ」を推奨しなくなっています。
しかし、これはあくまで町中の話です。
つまり、“雷しゃがみを推奨することで、安全な場所への避難が遅れる可能性がある”ことを懸念しての変更です。すぐに屋内に逃げ込める状況であれば、その場にしゃがみ込むよりも屋内に逃げ込んだ方が安全であるという前提に立っています。
山中・稜線ではどうでしょうか?
雷を待避できるような安全な場所はほとんどないでしょう。
個人的な意見になりますが、登山者にとっては依然として、「雷しゃがみの理論」は、超緊急時の待避行動として覚えておく必要があると考えています。



つまり、「多少の歩幅電圧はやむを得ないとして、なるべく姿勢をひくく、直撃・側撃を避けられるように山小屋に向けて移動を続ける」というのが比較的合理的なのではないでしょうか。
⑥ 爆風(雷爆圧外傷) ── 衝撃波による外傷
落雷の瞬間、放電路の空気が一気に膨張して強烈な衝撃波(爆風)が発生します。
この衝撃波によって、鼓膜の破裂は被雷者の50〜80%に起こります(StatPearls: Lightning Injuries)。
ひどい場合は吹き飛ばされて骨折や頭部外傷を負うこともあります。
冒頭の西穂高岳の事例でも落雷そのものの傷害ではなく、爆風により吹き飛ばされて滑落死したと思われるケースもいらっしゃいました。
特に稜線では無視できない傷害になります。
雷を予測する ── 気象庁データで”避けられる雷”を見抜く
雷は突然落ちるように見えますが、実は気象条件と気象庁データから、ある程度の予測はできます。
登山者が押さえるべきは、3つのタイミングです。
① 出発前 ── 「大気の状態が不安定」を警戒する


まず大原則として、
“積乱雲がなければ雷は発生しません”
つまり、積乱雲が発生・発達する条件が重要になります。
その条件はざっくり3つです。
- ☁️ 上空に寒気が入る(地上との温度差が大きくなる)
- ☀️ 日射で地表が温まる(夏の午後に多い)
- 💧 下層に湿った空気が流れ込む
ポイントは、上と下の温度差が大きいほど、空気がかき混ざって雲が爆発的に育つことです。
お風呂で「熱いお湯の上に冷たい水」を乗せると激しく対流するのと同じイメージです。
天気予報で、
「大気の状態が不安定」
「上空に寒気」
「ところにより雷を伴う」
といった言葉が出たら、雷を強く警戒しましょう。
💡 「雷三日」って、知っていますか?
「一度雷が鳴り出すと3日ほど続く」という昔からの言い伝えです。
実はこれ、迷信ではなく、ちゃんとした気象学的な根拠があります。
カギになるのは上空にやってくる「寒冷渦=寒冷低気圧」という存在です。
寒冷渦によって”上は冷たく、下は暑い”という不安定な状態が続き、雷雲が次々と発達します。
そして、この寒冷渦が通り過ぎるのに、だいたい3日ほどかかるとされています
登山者にとっての教訓としては、
「昨日、山で雷が鳴った。じゃあ今日・明日も同じように危ないかもしれない。」
——これは寒冷渦が居座っている可能性が高いという、気象学的に妥当な警戒判断になります。
② 当日朝 ── 気象庁「雷ナウキャスト」をチェック
雷ナウキャストとは?


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気象庁が発表している雷ナウキャストは、
雷の激しさと可能性を1km四方ごとに解析し、10分ごとに更新・最大1時間先まで予測してくれる無料ツールです。
時間を動かすと予測地域が時間経過で移動する様子がわかるため、なんとなくその先も想像することができます。
スマホからもアクセス可能なので是非ブックマークしておいてください。
活動度は4段階👇
| 活動度 | 意味(気象庁の表現) | 登山者の行動 |
|---|---|---|
| 活動度4 | 激しい雷 | 行動中止・待避姿勢 |
| 活動度3 | やや激しい雷 | 直ちに避難 |
| 活動度2 | 雷あり(すでに積乱雲が発生。いつ落雷してもおかしくない) | 直ちに避難 |
| 活動度1 | 雷可能性あり(雨雲が雷雲に発達する可能性) | 警戒態勢・撤退ルート確認 |
ポイントは、活動度2以上はもう「雷雲が発生している」状態だということ。
「まだ落ちていないから」ではなく、活動度2が出たら直ちに避難行動へ移ってください。
⚠️ ただし、重要な限界があります。
気象庁の雷監視システム(LIDEN)は全国30か所の受信局で検知しているため、山岳の遠隔地では精度が落ちることがあります。
気象庁自身も「活動度が出ていない地域でも急に雷雲が発達することがある」と注意を促しています。
つまり、データを過信せず、必ず自分の目で空を見ることもとても大切になります。
③ 行動中 ── 「入道雲の成長」を自分の目で見抜く


雷は極めて局地的な天候です。
そのような局地的な天気の急変を察知するには、五感を使って空気を感じることが非常に重要です。
雷雲が近づいてくるサインは以下のようになります。
- 積乱雲が急激に大きくなる
- 黒い雲が近づき、周囲が暗くなる
- 稜線の場合には積乱雲の中に入ってしまうことがあります。
- ガスに包まれた場合=雲の中に入っている場合にも落雷リスクが高まっています。
- 急に冷たい風が吹いてくる
- 稲光が見える、雷鳴が聞こえる
④まで待ってしまうとすでに被雷の危険範囲内に入っています。
③までの段階で落雷の危険性を見抜いて安全行動に移りましょう。
夏の雷は午後(13〜17時頃)に集中します。
だからこそ登山の鉄則は「早出・早着」。
午前中の早い時間に行動し、午後早めに小屋やテント場に着くことが、雷を避ける最大の予防策になります。
なぜ山の雷は”午後”に多いのか ── 「早出・早着」が効く理由
これを理解すると、登山の鉄則である「早出・早着」が、立派な落雷対策でもあることが見えてきます。
そもそも雷雲(積乱雲)は、強い上昇気流があるところで発達します。
そして山には、この上昇気流を生む”エンジン”が2つあります👇


エンジン①:日射による熱対流
太陽で地表が温められ、暖まった空気が軽くなって上昇する。平地の夏の雷(熱雷)と同じしくみです。
エンジン②:地形性の上昇気流(山特有)
斜面に風が吹きつけると、空気は山肌に沿って強制的に押し上げられます。まさに「稜線に当たった風が上昇気流になる」現象です。
平地では①だけですが、山では①と②が合わさる。
だから山は、平地よりも雷雲が“早く・大きく”発達しやすいんです。
そして、この2つのエンジンが最も強くなるのが「午後」です。
朝から地表が温められ、昼すぎ(13時頃)に上昇気流がピークに達し、そこから一気に積乱雲が育って13〜17時頃に落雷・突風・強雨を起こす
──これが夏山の典型的なパターンです。
思い出してください。
冒頭の西穂高岳の事故は13時40分頃の出来事でした。この日も午前中は好天。
けっして偶然ではないんです。



つまり、登山の鉄則である「早出・早着」は──
夜明けとともに歩き出し、上昇気流がまだ弱い午前中に行動を終え、雷雲が育つ午後の稜線に身を置かない。
体力や天候の余裕のためだけでなく、“雷の時間帯を避ける”という意味でも、理にかなった行動なんです。
雷の「常識」のウソ ── 思い込みが命取りに


雷については、昔から言い伝えられてきた“常識”がたくさんあります。
でも、その多くが科学的に間違いで、信じていると命に関わります。
代表的なものを、ここで正しておきましょう。
❌ 「金属を身につけていると雷に打たれやすい」
→ ウソです。実験的に否定されています。
ネックレスや時計、ザックの金具程度で雷が引き寄せられることはありません。
むしろ金属は電流を分流させる効果すらあるとされます(フランクリン・ジャパン)。
「金属を外せば安全」と考えて時間を浪費するほうが、よほど危険です。
❌ 「登山靴のソールやレインウェアは電気を通さないから安全」
→ ウソです。雷は数億ボルトの超高電圧。
薄いゴムの絶縁効果などまったく役に立ちません。
「ゴムを履いているから大丈夫」は、最も危険な思い込みの一つです。
❌ 「傘をさしていれば多少は安全」
→ むしろ危険。頭より高く金属の先端を突き出す行為は、雷を誘導しかねず論外です。
❌ 「大きな木の下で雨宿りすれば安全」
→ 非常に危険。前述の側撃雷で、木から飛び移った雷に撃たれます。
木からは最低でも幹から4m以上、枝先からも離れるのが鉄則です。
❌ 「ストックやピッケルを持っていると雷に打たれやすい」
→ これは半分正解で半分誤解なんです。
金属そのものが雷を”引き寄せる”わけではありません。
問題なのは、
身体より高く突き出すこと(直撃・コロナ放電を招く)
つまり本当に危険なのは「金属を身につけているか」ではなく、「突起物として高さを作ること」になります。
落雷を避ける3原則 ── 「逃げる・隠れる・離れる」
では、実際に雷雲が近づいてきたら、どう動くか。
覚えることはたった3つ、「逃げる・隠れる・離れる」です。
でも、巷で言われる対策には”古い常識”も混じっています。最新の考え方で整理しましょう。
① 逃げる ── とにかく「高い場所」から下りる
原則として、雷は高いところに落ちます。
避雷針のように特に先端が突出している場所。山中で言えば、山頂や高い木が該当します。
だから最優先は、稜線・ピーク・尾根から、一刻も早く標高を下げること。
できれば樹林帯の中(※高い木の”真下”ではなく、木々が覆い茂っている場所)まで下りるのが理想です。
「もう山頂は目前だから」という気持ちが、いちばん危険な判断を生みます。
登山全般において言えることですが、“進む勇気”より”引き返す勇気”です。
② 隠れる
山小屋や自動車があれば、その中が最も安全です
しかし、山中においては都合よくそんなものはないことがほとんどでしょう。



「隠れる」と聞くと、つい、
・高い木の下
・岩陰
・壁のない東屋
に入りたくなりますね。多少の風雨もしのげますし。
しかし、これらは側撃のリスクが高く、むしろ危険です。
テントも残念ながら危険です。
近くに山小屋があれば小屋内に移動しましょう。


高さのある物体には、雷が落ちたときにその物体が雷を引き受け、周囲の人が直撃を免れる範囲ができます。
これが“保護範囲”です。
- 目安は高さ5m以上の物体
- 物体からは4m以上離れる
- 物体のてっぺんを45度以上の角度で見上げられる範囲に入っている
この3つの条件を守れば、直撃からも側撃からも守られると考えられています。
💡 ただし、”何が保護してくれるか”が非常に重要です。
| 物体 | 保護範囲 | 行動 |
|---|---|---|
| 鉄塔・送電線・避雷針付き建物(金属・接地) | あり | 逃げ込む(2〜4m以上離れる) 鉄塔など明らかな導体では2m離れればOK |
| 木(電気を通しにくい) | なし むしろ側撃の的 | 保護範囲は活用できないので、できるだけ離れる |
注意‼️
「45度の保護範囲」は、避雷針・鉄塔など”人工の接地導体”を前提にした工学概念です。
これを自然の岩にそのまま当てはめた査読文献は見つかりませんでした。



フランクリン・ジャパンでも警鐘されているように、木のような自然物は基本保護範囲はないと考えてください。
鉄塔や送電線の下は、実は屋外でいちばん安全な避難先です。
金属が地面につながっていて、雷を安全に地面へ逃がしてくれるから。
──ところが、山の稜線にそんな都合のいい鉄塔はまずありません。これが登山の難しいところです。
🌲 木は、保護してくれるどころか”最も危険”。
木は電気を通しにくいので、落ちた雷が逃げ道を求めて、電気を通しやすい人(そば)に飛び移ります(側撃)。
木の下の雨宿りは、絶対にやめてください。
🪨 では岩は?
巨岩に関しては近年の明確なデータはありません。
しかし、WMS落雷ガイドライン2014では、以下の状況は危険と警告しています。
- 岩のひさし(rock overhang)の下
ひさしと体が”スパークギャップ”になり、雷がひさし縁→登山者の体→地面という最短経路を通る - 浅い洞穴・岩の割れ目の入口
地電流・側撃が体を橋渡しする - 孤立した岩
保護範囲の項目でも解説しましたが、保護範囲が適用されるのは、あくまで人工物。
巨岩に関しても保護範囲があるかのような記載をしているサイトもありますが、基本的には保護範囲は適用されず離れたほうが良いと考えられます。
大切なのは、“保護範囲は「直撃・側撃」を避けるための最後の手段”だということ。
地電流(歩幅電圧)まで防げるわけではありません。
一番の安全は、やはり「そもそも稜線にいない」こと、山小屋のような「四方を壁に囲まれた建物内に逃げ込むこと」です。
保護範囲は、逃げ切れないときの”次善の策”と覚えておいてください。
③ 離れる ── 高い木と人から距離を取る
「離れる」べき相手は、雷が落ちやすく、かつ”側撃”を起こす物体です。
具体的には👇
- 単独で高くそびえる木から離れる
木は電気を通しにくく、側撃の的 - 自分が”その場でいちばん高い物”にならない
開けた稜線・ピークからは早く離れる(下りる) - 仲間とは6m以上の間隔をあける(WMS落雷ガイドライン2014)
固まっていると、側撃や地電流で複数人が同時に被災します - 浅い洞穴や岩の隙間から離れる
隙間に人体が入ることで雷の通り道になりやすい
- 岩塔・大岩も要注意
古い文献を参考にこれらにも保護範囲があるかのような記載をしているものもありますが、基本的に保護範囲にはなり得ないと考え、離れる方がbetterです。
「30-30ルール」 ── 撤退と再開の判断基準
「どのくらい雷が近づいたら避難すべきか」
「いつ行動を再開していいか」
── これを判断するのに、世界的に広く推奨されてきたのが30-30ルールです。
- ⚡ 前半の「30」:稲光が見えてから雷鳴まで30秒以内なら、雷は約10km以内に迫っています
音速340m/s➜340m/s×30秒≒10km - ⏱️ 後半の「30」:最後の雷鳴から30分間は、安全な場所に留まる。
雷雲は去ったように見えても、最後の雷から離れた場所へ落ちることがあるためです。
なお、米国気象局(NWS)の現在の呼びかけは、この前半部分をさらにシンプルにし、「雷鳴が聞こえたら避難(When Thunder Roars, Go Indoors)」を前面に出しています(NOAA/米国気象局)。
つまり、登山では、
- “雷鳴が聞こえた時点でもう危険圏内”と考えて行動する
- 最後の雷鳴から30分経過するまでは危険圏内と判断する
これが最もシンプルで安全な判断になります。
まとめ ── 雷は「避けられる災害」
まとめです!
今日のポイントを整理します👇
- 被雷は6つのパターン
- 直撃
- 側撃
- 接触
- 地電流(歩幅電圧)
- 上向きストリーマ(コロナ放電)
- 爆風
- 落雷予測は3段構え
①大気の状態が不安定」という天気予報
②雷ナウキャスト
活動度2以上は直ちに避難
③自分の目で現場判断 - ⚡️ 金属・ゴム・傘・木の下の”常識”は命取り
- 雷雲が近づいたら逃げる・隠れる・離れる
- 山中で安全なのは山小屋の中だけ
- 木からは4m以上、人からは6m以上離れる
- 判断は30-30ルール
- 雷鳴が聞こえたら被雷範囲に入っているので待避行動を取る
- 最後の雷鳴から30分経過するまでは危険範囲内
- 「早出・早着」が最強の雷対策
夏山の雷は、知識と早い判断で高い確率で避けられる災害です。
そして当たってしまえば、致命的で生き延びても重い後遺症が残りうる。
だからこそ「まだ大丈夫」ではなく、「もう引き返そう」と言える勇気を、ぜひ持ち帰ってください。
そして、次回は、落雷【救命編】をお届けします。
もし目の前で仲間が雷に打たれてしまったら──。
通常の心肺蘇生とは違う「逆トリアージ」という考え方など、命をつなぐための知識を、循環器内科医・国際山岳医の視点から解説します。お楽しみに。
最後まで閲覧いただきありがとうございました!
※本記事は医療・安全情報の提供を目的としており、個別の医療行為を推奨するものではありません。実際の症状や対応については、必ず医師・医療機関、専門機関にご相談ください。


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