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はじめに
こんにちは!市川です!
僕の自己紹介はコチラ

循環器内科医としての病院勤務の傍らで、国際山岳医(DiMM)として以下のような活動をしています。
✔️登山者検診/登山者外来による予防・登山サポート
✔️赤岳鉱泉山岳診療所を運営(日本で唯一冬季診療も行っている診療所)
さらに「医療から登山をもっと安全に」をミッションとしてブログを通じて登山における医学的内容を発信しています。
2026年5月末〜Tozan Medical Officeを立ち上げました。
まずはTozan Medical Consulting〜登山×医療相談〜という名の登山者に対する個別のオンライン面談を開始しています。興味がある方はぜひこちらのリンクから詳細をご覧ください😊
今日のテーマは「落雷の救命法」です。
前回の落雷【予防編】に続く、落雷シリーズの完結編になります。
いきなりですが、クイズです。

Q. あなたの4人パーティーが稜線で雷に遭い、あなた以外の3人が被雷して倒れました。
- Aさん:痛みでうめき声を上げている
- Bさん:足のしびれを訴えて座り込んでいる
- Cさん:倒れたまま動かず、呼吸もしていない
あなたは誰から助けますか?
正解は「呼吸が止まっているCさんから」です。
「えっ、うめき声を上げているAさんが先じゃないの?」
と思った方が多いのではないでしょうか。
この答えを理解するために、まず「トリアージ」という考え方を簡単に説明させてください。
事故や災害で傷病者が同時に多数発生すると、救助の人手が足りなくなります。
そこで「限られた人手で、1人でも多くの命を助ける」ために治療の優先順位をつけること。
これがトリアージです。
一般的には次の4色に分類されます。
- 🔴 赤(最優先):
今すぐ処置しないと命を落とすが、処置すれば助かる見込みが高い人 - 🟡 黄(準優先):
処置をしばらく待てる中等症の人 - 🟢 緑(軽症):
自力で歩ける人 - ⚫️ 黒(不処置):
すでに呼吸がなく、救命の見込みが極めて低い人→残念ながら処置を行わない

注目してほしいのは「黒」です。
冷たく聞こえるかもしれませんが、多数傷病者の現場で心肺停止の1人に救助者2人がかり・数十分の心肺蘇生を行うと、その間に処置すれば助かったはずの「赤」の人が亡くなってしまいます。
そして、「黒」=心肺停止状態から救命できる確率はかなり低いのが現実です。
結果として、黒と赤の2人の傷病者を失ってしまうなら、せめて赤だけでも助けようというのがコンセプトです。
だから通常の災害トリアージでは、「呼吸のない人(心肺停止)=黒=処置しない」が原則なのです。
※なお「動かない」だけでは黒ではありません。呼びかけに反応がなくても呼吸があれば最優先の「赤」です。
黒の判定は、あくまで気道を確保しても「呼吸がない」こと。
ところが──
落雷では、この原則が”真逆”になります。
通常なら黒と判定されてしまう「呼吸がなく通常なら助けらないCさん」こそを、最優先で蘇生する。
これを「逆トリアージ」と呼びます。
なぜ逆になるのか?
そこには落雷ならではの、はっきりとした医学的な理由があります。
今回は循環器内科医・国際山岳医の視点から、雷に打たれた仲間の命をつなぐための知識を解説します。
- 落雷で人体に何が起きるのか
- なぜ「動かない人」から助けるのか(逆トリアージの医学的根拠)
- 通常の心肺蘇生と違う「落雷救命の4つの鉄則」
- 蘇生を「いつまで」続けるか、その根拠と現実
- 蘇生できた後に必ず病院へ行くべき理由
少し専門的な内容も含みますが、できる限りかみ砕いて解説しました。
この知識は、いざという時にあなたの仲間の命を救います!是非、最後までご覧ください!
参考文献
本記事は、以下の主要ガイドライン・文献を根拠に作成しています。
- WMS 落雷外傷の予防と治療ガイドライン 2014(米国ウィルダネス医学会)
Davis C, et al. Wilderness Environ Med. 2014;25(4 Suppl):S86-S95. PMID: 25498265 - AHAガイドライン2025 特殊な状況における蘇生(アメリカ心臓協会)
※落雷を含む電撃傷の心停止に「標準的な蘇生・除細動・現場の安全確保」を推奨(COR1)。逆トリアージ等の落雷特異的記載はWMS2014による - StatPearls: Lightning Injuries(米国の医学教科書データベース)
- 落雷による外傷と死亡(病態レビュー)
Blumenthal R. J Clin Pathol. 2021;74(5):279-284. PMID: 32796053 - こんなしびれは、勘弁だ!Part1 〜雷撃症〜(日本語総説)
林寛之. レジデントノート. 2022;24(1):135-142. - 雷撃麻痺(keraunoparalysis)について
Kumar A, et al. J Craniovertebr Junction Spine. 2012;3(1):3-6. PMID: 23741121
どれか1つ原本に当たるなら、WMS 2014が落雷に特化していて一番オススメです。
なお、落雷は倫理的に臨床試験(RCT)ができないため、エビデンスの多くは症例報告の集積に基づく「強い推奨・低い質(1C)」です。その限界も含めて、推奨度を本文中に明記していきます。
落雷で人体に何が起きるのか ──焼死は稀、心肺停止が死亡原因となる
救命法の前に、まず「雷に打たれると体の中で何が起きるのか」を理解しましょう。
ここが分かると、逆トリアージが”暗記”ではなく”納得”に変わります。
そもそも、なぜ”黒焦げ”にならないのか?

- 雷の電圧は1000万を超え、ときに数億ボルト
- 電流は数万アンペア
- 落雷の温度は約3万℃≒太陽の表面温度の約5倍
に達します。
この数字だけ聞くと、「直撃=即・黒焦げで焼死」を想像しますよね。
ところが、実際には落雷被災者の多くは焼死しません。深い熱傷を負う人もむしろ少数派です。
カギは「通電時間が一瞬であること」です。
雷の電流が体に触れている時間はおよそ1000分の1秒〜10分の1秒と、まさに一瞬です。
この”一瞬”がポイントで、電流は体の奥に入り込む間もなく、濡れた肌・汗・衣服の表面をすべるように流れて地面へ抜けていきます。これを「フラッシュオーバー」と呼びます。
その結果、体の奥深くを通る電流は限られ、内臓の損傷や深い熱傷は比較的少なくなるのです。
実際、全層熱傷(深いやけど)は5%未満とされています(StatPearls)。
これは、家庭用コンセントや高圧線の感電とは対照的です。
こちらは電気が長い時間流れ続けるため、皮膚を破って体内を貫通し、深い熱傷や筋肉の壊死(横紋筋融解)が重症化します。
つまり「一瞬で体表を流れる落雷」と「長く体内を流れ続ける感電」
──同じ電気でも、体に残すダメージは大きく違うのです。

もちろん「絶対に深い火傷を生じない」わけではありません。
線状・点状の皮膚熱傷は生じますし、身につけた金属や化繊が熱せられて二次的にやけどすることもあります。
ただ、落雷で命を奪う主役は”焼死”=深部臓器の火傷ではない、ということです。
では、落雷が命を奪う主因は何か?
「心臓」と「呼吸」が同時に止まることです。
落雷の死因の大半は、熱傷ではなく心停止と呼吸停止で起こります。
ここから先が、救命の本題です。
「心臓」と「呼吸」が同時に止まる
雷の電流が体を流れると、命に関わる2つの停止が同時に起こります。
- 心停止:
強烈な電流で心臓の筋肉全体が一瞬で一斉に脱分極(電気的にフリーズ)し、心臓が止まります。家庭用の交流電源が心室細動を起こしやすいのに対し、落雷は瞬間的な大電流が巨大な除細動器のように心臓を一旦止めるため、心静止(Asystole)が典型的とされます(心室細動(VF)になることもあります)。 - 呼吸停止:
脳幹(延髄)にある呼吸中枢が麻痺し、呼吸の指令が止まります。
ここからが落雷の最大のポイントです。
- 心臓も呼吸も電気ショックによる一時的な機能停止(シャットダウン)状態となる
破壊されて機能不全になるわけではない - 心臓も呼吸もやがて再起動して、動き出す。
- ところが、麻痺した呼吸中枢の回復は心臓より遅れます。
- その結果、心臓は動き出したのに呼吸が止まったまま→酸素不足で、再び心臓が止まる(真の死亡)
という経過をたどります。
つまり、落雷直後の“動かない人”の中には、「心臓は戻りかけているのに、呼吸が止まっているせいで死に向かっている人」が含まれているのです。
この人は、誰かが人工呼吸さえしてあげれば助かる可能性が非常に高いです。



循環器内科医として言わせてもらうと、落雷では心臓は焼け焦げてしまうわけではなく、電気ショックで一時的に停止してしまうだけで、心機能そのものは正常です。
したがって、心臓も呼吸も止まっている間だけサポートしてあげられれば救命できる可能性が非常に高くなります。
安全配慮は必要ですが、救命のことだけ考えれば、早く現場で換気(人工呼吸)を始められるかが勝負になります。
心静止?、心室細動?っていう方は以下の記事をご参照ください。
一言でいえば、どちらも心停止です😅


落雷救命の4つの鉄則 ── 通常の心肺蘇生と”ここが違う”


上記のメカニズムを踏まえて、落雷救命で通常の心肺蘇生と異なるポイントを4つの鉄則にまとめます。
- まずは自分の安全を確保
- 逆トリアージ──心肺停止を最優先で蘇生する
- 人工呼吸をためらわない ── 落雷救命の主役は”呼吸”
- 諦めない ── 落雷の心停止は「助かりやすい心停止」
鉄則① まず自分の安全 ── 雷は同じ場所に何度も落ちる
大前提ですが、雷雲が頭上にある間、落雷は同じエリアに繰り返し落ちます。
倒れた仲間に駆け寄りたい気持ちは痛いほど分かりますが、救助者まで被雷したら、助けられる人がゼロになります。
- 雷の活動が続く間は、まず自分の身を低く危険の少ない場所へ
- 可能であれば被災者ごとより安全な場所へ移動してから蘇生する
- 安全の判断は「30-30ルール」(最後の雷鳴から30分待機など)が目安
「30-30ルール」は、雷が過ぎて“行動を再開してよいか”を判断する予防の目安です。
救命の現場では30分も待てないケースがほとんどです。
雷雲の動きを見て活発な落雷が遠ざかったら、自分と(可能なら)被災者をより安全な場所へ移し、できるだけ早く蘇生を始めます。
(※ただし激しい落雷が頭上で続く間は、近づくこと自体が二次被災のリスク。救助者の安全が最優先です。)
鉄則② 逆トリアージ ──心肺停止を最優先で蘇生する


冒頭のクイズの答えです。
複数の被災者が出たら、うめいている人・しゃべれる人は後回し。
「動かず、呼吸もない人」から蘇生を始めます。
| 通常の災害トリアージ | 落雷の逆トリアージ | |
|---|---|---|
| 呼吸のない人 (心肺停止) | 救命の見込みが低い =黒(処置しない) | 最優先で蘇生 (救命できる可能性が高いから) |
| うめいている人 動ける人 | 赤・黄・緑として 優先的に処置 | ひとまず後回し |
理由は前章の通りです。
- 声を出せている人=心臓も呼吸もすでに動いている=直ちに命を落とす可能性は低い
- 動かない人=心停止・呼吸停止だが、原因は一過性の”電気的フリーズ”=早く換気・心肺蘇生すれば戻る可能性が十分ある
WMSガイドラインは複数被災時の逆トリアージを正式に推奨(推奨度1C)しています。
根拠は前の章でお話ししたとおり
- 電気ショックにより心臓も呼吸も停止する
一時的な機能停止(シャットダウン)のみで、破壊されているわけではない - 再起動の順番が心臓→呼吸
呼吸停止は遷延する - 放置していると呼吸停止により再度心停止してしまい、真の死に至る
ゆえに一時的に心臓マッサージ+人工呼吸≒心肺蘇生を行えば、自然に再起動して救命できる!
鉄則③ 人工呼吸をためらわない ── 落雷救命の主役は”呼吸”
近年の心肺蘇生講習では”Hands only CPR”といって「人工呼吸に自信がなければ胸骨圧迫だけでもよい」と教わります。
これは一般的な心停止(多くは心臓自体が原因)では正しいのですが、落雷では事情が異なります。
すでにお話しした通り、落雷の死の主役は「遷延する呼吸停止→低酸素→二次的心停止」です。
裏を返せば、呼吸さえ確保できていれば、心臓は自力で戻ってくれる可能性があるということ。
- 呼吸がなければ胸骨圧迫30回+人工呼吸2回の標準CPRを
- 落雷では人工呼吸(換気)の価値が通常より大きい。
- 感染防護具(ポケットマスク等)がファーストエイドキットにあると理想的
そもそもマウストゥマウスでは有効な人工呼吸は難しいです😥
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“人工呼吸”というのは実はかなり難しいです。
医療従事者、たとえ医師であってもちゃんとデキる人は実は限られています。
ファーストエイド講習会などでしっかりと定期的に練習しておいてください!
「感電した人に触ると自分も感電するのでは…」と、手を出すのをためらう方がいます。
家庭用電源や送電線の事故では電源が生きている限りそのリスクがありますが、落雷は一瞬で電流が抜けるため、被災者の体に電気は残りません。
「落雷の被災者に残留電荷はなく、現場の安全が確保されていれば直ちに触れて蘇生してよい」
ためらっている数十秒のあいだにも、脳は酸素不足にさらされ続けます。
(鉄則①の現場安全を確認したうえで)ためらわず触れて、すぐに蘇生を始めてください。
鉄則④ 諦めない ── 落雷の心停止は「助かりやすい心停止」
落雷による心停止は、心筋梗塞のように心臓そのものが破壊されるわけではありません。
原因は一過性の電気ショックであり、被災者の多くは若くて心肺の持病がない登山者です。
WMSガイドラインによると「落雷による心停止に対して迅速に心肺蘇生を行うことで、神経学的予後良好な状態で救命できた事例が多数報告されている」としています。



被雷したとしても心臓や肺が破壊されているわけではなく、一時的な機能停止に陥っているだけです。
初期評価で心肺停止状態であっても、積極的に蘇生すれば、やがて再起動して動き出す可能性は高いのです。
被雷現場での動き方 ── 6つのステップ
4つの鉄則を、実際の動きに落とし込むと以下の通りです。


- 安全確認:
雷の活動が続く間は無理をしない。可能なら被災者ごと安全な場所へ - 反応・呼吸の確認:
肩を叩いて呼びかけ、「ふだん通りの呼吸」の有無を10秒以内で確認 - 複数被災なら逆トリアージ:
気道確保しても呼吸がない人≒心肺停止の人から救命する - 救助要請:
110番(または119番)。人手があれば心肺蘇生と同時並行で。
まず伝えるべきは”現在地”と”状況”。「落雷に打たれました。現在地は・・・です。」
GPSアプリで緯度経度を伝えましょう。現在地を伝えないと救助に来てくれません。 - 心肺蘇生(CPR)開始:
胸骨圧迫(強く・速く・絶え間なく)+人工呼吸。落雷では人工呼吸を重視。 - AEDがあれば装着:
落雷の心停止は心静止が典型ですが心室細動もあり得ます。心電図の解析と電気ショックの判断はAEDが自動で行ってくれるので、入手できるなら迷わず使いましょう。
紛らわしい所見 ── 手足が麻痺?瞳孔散大?
落雷の現場では、判断を惑わせる「紛らわしい所見」があります。
- 雷撃麻痺(keraunoparalysis)
- 瞳孔散大(自律神経障害による一過性麻痺)
雷撃麻痺(keraunoparalysis)
雷に打たれた人の手足が「冷たく・青白く・脈が触れず・動かせない」状態になることがあります。
これは雷の刺激で手足の血管が一時的にギュッと縮む(攣縮する)ために起こると考えられています。
下半身に出やすく、多くは数時間(長くても数日)で自然に元どおりになります。
この際に手首で脈を測ると触れないことがありますが、心停止ではありません。
瞳孔散大
医療従事者の中には心肺停止状態の患者さんの状態を把握するために、蘇生中に瞳孔を診ることがあります。
瞳孔が大きく散大して、対光反射がないような状態≒すでに脳死に至っている可能性が高く、一般的には救命困難のサインとなります。
落雷では自律神経の一時的な障害によって瞳孔が開いたまま固定されることがあり、これは「死亡のサイン」として当てになりません。
「瞳孔が開いているからもうダメだ」「対光反射がないから死亡している」と判断して蘇生をやめてはいけないのです。
- 「手足の脈が触れない=心臓が止まった」と決めつけない。
雷では手足の脈だけが一時的に消えることがあるので、首(頸動脈)など”体の中心”の脈で確認します。 - 「手足が動かない=脊髄損傷」と決めつけない。
雷撃麻痺なら時間とともに回復します。
※ただし半日〜数日たっても麻痺が戻らないときは、脊髄損傷など別の原因も疑いましょう。 - 「瞳孔が散大している=死亡した」と決めつけない。
自律神経障害の問題で、やがて瞳孔は元に戻ります。
蘇生はいつまで続けるか ──「諦めない」の根拠と現実
「救助が来るまで何十分も、山の上でCPRを続ける意味があるのか」
──正直な疑問だと思います。
通常の心停止では、心肺蘇生が35分を超えるとほぼ蘇生は不可能とされています。
しかし、落雷は前述の通り「一過性の電気的な心停止」であり、一般の心停止より蘇生に反応しやすいグループです。
だからこそ各ガイドラインは、落雷では、長時間の積極的な蘇生を続けることを求めています。
なぜ”心肺停止時間が長く”なっても助かるのか ── 2つの理由
通常は心肺停止が5分ほど続くと脳がダメージを受け始めるといわれています。
なのに、なぜ落雷は長時間の心肺停止でも助かる可能性があるのでしょうか?
──ここが落雷のいちばん興味深い、そして大切なポイントです。理由は大きく2つあります。
通常の心停止で脳が短時間でダメになるのは、その間、血液が巡らない(無灌流)から。
ところが落雷では、多くの場合——
- 心臓は虚血で傷んでいないので、自動能(自力で動き出す力)で比較的早く拍動を再開し、血流が戻る/保たれる
- 一方、呼吸中枢の麻痺は長引き、呼吸だけが止まったままになる
- だから人工呼吸で「呼吸」を肩代わりすれば、その間も脳に血液が巡り続ける
このタイプでは、倒れて動かない人でも実は血は巡っていて、換気さえすれば回復します。これが救命の主役が人工呼吸であり、逆トリアージ(動かない人を最優先)が成り立つ理由です。
とはいえ、心臓が本当に止まったままで、長時間の胸骨圧迫が必要になるケースもあります。
通常の心停止が助かりにくいのは、無灌流に加えて「原因(多くは心筋梗塞=心臓そのものの病気)が続く」から。心肺蘇生をしても、原因が取り除けないので心拍が戻りにくいのです。
落雷は違います。原因は一瞬の電気ショックで、心臓そのものは壊れていません。だから——
- 長く心肺蘇生を続ければ、心拍が戻る見込みが残る(病んだ心臓とは決定的に違う)
- 被災者が若く健康なら、質の高い胸骨圧迫で脳に血流をつなぎながら粘れる
だから落雷では、通常なら諦めるような長い蘇生でも、報われることがあるのです。
理由①も②も、根っこは同じ——「原因が一過性で、心臓がもともと健康」だということ。
だから落雷では、通常の心停止より、はるかに長く諦めずに蘇生する価値があるのです。
WMS落雷ガイドライン2014 / StatPearls: Lightning Injuries



実際のところどれくらいの時間かかっても救命できるの?
この疑問は当然ですね。
しかし、落雷に関しては統計も難しく、症例報告も限られているので正確な数字は出せません。
僕が調べた限りでは…
36歳男性、屋外で被雷し、院外心停止へ。自己心拍再開までに50分の時間を要した。
重度の末梢神経障害を発症したが、認知機能は驚くほど良好であった。
神経リハビリテーションを行い、自立した生活を送れるようになった。
上記が神経学的な予後良好な状態での、最長心肺停止時間でした。
低体温症のように数時間の心肺停止でも助けられるというほど甘くはありません。
もともとの機序を考えても当然ですね😥



「落雷なら何時間でも蘇生できる」というデータがあるわけではありません。
ただ、通常なら諦めるような状況でも、落雷では助かった報告が複数あります。これが「諦めない」の根拠です。
一方で、現実もお伝えしなければなりません。
山中でのCPRは想像以上に体力を消耗しますし、悪天候の中では救助者自身の低体温・疲労・二次遭難のリスクが常につきまといます。
「全員を救える」とは限らないのが山の現実です。
二次遭難のリスクを避けるためには”諦める勇気”を持つということも大切です。
まとめ ── 予防が最善、それでも最悪が起きたら
- まず自分の安全(雷は同じ場所に何度も落ちる)
- 逆トリアージ:呼吸のない人(心肺停止)から助ける
- 人工呼吸をためらわない:落雷救命の主役は”呼吸”
- 諦めない:落雷は”助かりやすい心停止”。瞳孔散大でも見切らない。
今回は最重症である心肺停止を中心に解説しました。
それ以外にも、
- 鼓膜損傷:被災者の50〜80%とかなり高率
- やけど:電流の通り道や金属をつけていた場所に出やすい
- 神経・筋肉の障害:しびれ・脱力・記憶障害など。
など、様々な傷害があります。
これらに関しては一般的な外傷と処置の考え方には差はありませんが、要望が多ければいずれどこかで解説記事を作成するかもしれません。
言うまでもなく、最善の対策は「雷に遭わないこと」です。
前回の予防編でお話しした「逃げる・隠れる・離れる」と「30-30ルール」、そして早出・早着。
まずはこちらを徹底することが最重要です。
そのうえで、もし最悪の瞬間に立ち会ってしまったら。
今日の「まずは自分の安全を最優先に、意識・呼吸がない人から、人工呼吸をためらわず、諦めない」を思い出してください。
その知識とあなたの手が、仲間の命をつなぎます。
知識を持って、夏山を安全に楽しみましょう!
最後まで閲覧いただきありがとうございました!
※本記事は医療・安全情報の提供を目的としており、個別の医療行為を推奨するものではありません。実際の症状や対応については、必ず医師・医療機関、専門機関にご相談ください。



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