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はじめに
こんにちは!市川です!
僕の自己紹介はコチラ

循環器内科医としての病院勤務の傍らで、国際山岳医(DiMM)として以下のような活動をしています。
✔️登山者検診/登山者外来による予防・登山サポート
✔️赤岳鉱泉山岳診療所を運営(日本で唯一冬季診療も行っている診療所)
さらに「医療から登山をもっと安全に」をミッションとしてブログを通じて登山における医学的内容を発信しています。
2026年5月末〜Tozan Medical Officeを立ち上げました。
「山岳医療を、相談できる距離に。」
まずはTozan Medical Consulting〜登山×医療相談〜という名の登山者に対する個別のオンライン面談を開始しています。興味がある方はぜひこちらのリンクから詳細をご覧ください😊
今日のテーマはこちら👇
「富士山と高山病」です。
日本一の山・富士山。
年間20万人前後が登る、まさに国民的な山です。
ですが同時に、登山者のおよそ3〜5割が高山病(急性高山病=AMS)を経験するとも言われる、“日本で一番高山病になりやすい山”でもあります。
Horiuchi M, et al. High Alt Med Biol. 2024;25(2):140-148. PMID: 38416507
Uno T, Horiuchi M. Wilderness Environ Med. 2026. PMID: 42393526

高山病は体力の問題でしょ?
そう思っている方もいるかもしれませんが、実は“高所に強いかどうかは体質に大きく依存します”
さらに、
- どの高度で泊まるか
- どう登るか
によって高山病を発症する確率は大きく変わります。
そして2024年から富士山には弾丸登山を防ぐための通行ルールが運用されています。
実は「弾丸登山」と「高山病」の間には意外な関係があります。
皆さんに質問です。
以下に自信をもって答えられますか?
- “なぜ富士山では高山病になりやすいのか?”
- “高山病を左右する最大の要因は?”
- “何合目に泊まるのが正解? 五合目でどれくらい休むべき?”
- “睡眠不足は高山病に影響するのか?”
- “弾丸登山と高山病の関係は?”
今回の記事では、国際山岳医の視点から、この疑問を一つずつ解消していきます。
- 富士山の高山病は”登る高度”より”寝る高度(就寝高度)”が本質
- 何合目に泊まるかで高山病リスクは変わる
- 弾丸登山規制と、弾丸登山の”本当のリスク”
- 高山病になったら”まずは高度を上げずに口すぼめ呼吸”
大前提として、高所に強いか弱いかは体質によるところが大きいです。
- 高所に強い方は何も対策をしなくても高山病にならないし、
- 高所に弱い方は対策をしないと特定の高度でほぼ高山病になります。
高所に弱い方は今回の記事は必読ですし、高所に強い方でも特定の条件が揃えば、やはり高山病になることもあるため、今回の記事内容を知っておいて損はありません。
ぜひ最後まで読んでみてください!
細かい話もありますが、覚えてほしい柱はシンプルです。
「ゆっくり登る≒寝る高度を上げすぎない」
この一点を軸に、一緒に整理していきましょう!
富士山の高山病の現実 ── 受診者の5割が高山病


まず、富士山で高山病がどれくらい起きているのか、数字で見てみましょう。
富士山の八合目(標高約3,100m)には、夏山シーズン中に富士山八合目富士吉田救護所が開設され、体調を崩した登山者の診療にあたっています。
この救護所のデータが、富士山の高山病の”現実”をよく表しています。
- 八合目の救護所を受診する登山者は毎年おおむね300〜400人前後(2025年は352人)
- そのうち受診理由の5割が「高山病(疑い含む)」で最多(年によって幅があります)
- 2025年シーズン(62日開設・受診352人)では、
- 高山病が175人=49.7%で最多
- 次いで捻挫・打撲など10.8%、擦過傷など8.5%、筋肉痛・疲労8.2%、低体温症2.0%
つまり、富士山で”救護所にかかるほど体調を崩す”最大の原因は、ケガではなく高山病なのです。
(出典:山梨県「令和7年度 富士山吉田口救護所統計」/富士吉田市「富士山八合目富士吉田救護所」)
そして、富士山の登山者を調べた研究のなかで最も規模の大きい調査がこちらです。
富士山を登った1,932人を対象にした調査です。
- 高山病(AMS)を発症したのは31.6%
- 性別は発症のしやすさとは関係なし
- 標高2,870mより高い小屋に泊まった人は、2,815mより低い小屋に泊まった人より、有意に高山病が多かった (p < 0.001)。
Horiuchi M, et al. High Alt Med Biol. 2018;19(2):193-200. PMID: 29741971
- 年齢については、その後の研究で評価が変わっています。この調査では「関係なし」でしたが、より新しい2024年、2026年に実施された研究において、喫煙や飲酒などの影響を統計的に取り除いて解析した結果、「若い人ほどなりやすい」と報告されています(Q1で詳しく触れます)。
ここで注目してほしいのは、「どの高度で寝たか」で発症率がはっきり分かれたという部分です。
高山病は、“どう登って、どこで寝たか”に大きく影響を受けるということです。



「高山病は体力でなんとかなる」は完全な誤解です。
体力や気合いとは別の、高度と酸素の問題。
そして、各個人の体質が大きく影響します。
だからこそ、登り方と泊まり方の”設計”でできる限り予防することが重要です。
そもそも急性高山病(AMS)とは何か、症状の全体像は、こちらの記事で詳しくまとめています👇


なぜ高山病になるのか ── “気圧の低下”と”寝る高度”
高山病のメカニズムは、突き詰めると「体内の酸素が薄くなること」に尽きます。
高いところは”酸素の濃度”ではなく”気圧”が下がる


よくある誤解が「高いところは酸素が薄くなる」というもの。
実は、空気中の酸素濃度は、平地でも富士山頂でも約21%で変わりません。
変わるのは気圧です。
標高が上がるほど気圧が下がり、それに比例して酸素分圧(=実際に肺に取り込める酸素を”押し込む力”)が下がります。
- 富士山頂(3,776m)の気圧は平地の約2/3
- つまり一呼吸で取り込める酸素も、平地の約2/3程度まで減る
- 体はこれを補おうと呼吸・心拍を増やすが、順応には時間がかかる
この”酸素不足に体が追いつけない状態”で出てくる、頭痛・吐き気・食欲低下・だるさ・めまいといった症状が高山病です。
そもそも高山病とは?


国際的には、高山病はレイクルイーズスコア(Lake Louise Score)という基準で評価されます。
2018年の国際コンセンサスでは、
- 頭痛:ほぼ必発!
- 消化器症状(吐き気/食欲低下)
- 疲労/脱力
- めまい
の4項目で点数化する方法が示されました。
Roach RC, et al. High Alt Med Biol. 2018;19(1):4-6. (PMID: 29583031)
興味深いのは、「睡眠障害」は高山病の項目から外されたこと。
眠れないのは高山病そのものというより高所の低酸素による面が大きいと整理されたためです(この”高所で眠れない”問題は後日、別記事で深掘りします)。
なお、高山病は正式には、急性高度障害(Acute altitude illness)と言って、以下の3つの病態を含みます。
- 急性高山病(AMS):Acute Mountain Sickness
- 高地脳浮腫(HACE):High Altitude Cerebral Edema
- 高地肺水腫(HAPE):High Altitude Pulmonary Edema
急性高山病(AMS)がいわゆる高山病であり、先程のレイクルイーズスコアで評価されるような症状を呈します。
急性高山病のみで死に至るようなことは原則ありません。
一方で、高地脳浮腫(HACE)や高地肺水腫(HAPE)は重症型と呼ばれ、すぐに下山しなければ死に至る可能性が高い病態です。
映画などで高山病になって血を吐いている映像がありますが、あれは高地肺水腫(HAPE)を表しています。



高地脳浮腫や高地肺水腫の発症頻度は極めて稀です。
特に高地脳浮腫に関しては、おそらく日本国内の高度では発症しないと考えられます。
(高地肺水腫は国内でも散見されており、高地肺水腫によって過剰な低酸素状態となり、脳浮腫に至った事例は報告があります)
したがって、今回の記事では急性高山病をメインに解説します。
重症型である高地肺水腫・高地脳浮腫については、いずれまとめて記事を出します。
高山病予防の本質は”登った高度”より”寝た高度(就寝高度)”


ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
高山病のリスクを決めるのは、「その日一番高く登った地点」ではなく「その日に寝る高度」です。
日中に高いところまで登っても、夜に低いところまで下りて寝られれば、体は回復できます。
逆に、標高が高い場所で寝ると、睡眠中が最も低酸素にさらされることから、そこで長時間低酸素にさらされ続けて順応が追いつかなくなるのです。
高所医学の世界には“Climb high, sleep low(高く登り、低く眠れ)”という有名な格言があります。
前述の富士山の高山病の現実で解説した「標高2,870mより高い小屋に泊まった人は、2,815mより低い小屋に泊まった人より、有意に高山病が多かった 」というのも、まさにこの原則の通りですね。
高山病予防のカギは「就寝高度をコントロールすること」
高所での睡眠がなぜ良くないのか?こちらの記事を参照して下さい👇️


順応の仕組みや「体力があればカバーできるのか?」といった疑問は、こちらの前後編で詳しく解説しています👇




何合目に泊まるのが正解か ── 就寝高度別リスクと五合目順応
ここまでを踏まえると、富士登山の”泊まり方”のポイントは2つに整理できます。
- 五合目で高度に体を慣らしてから登り始める
- 山小屋泊での就寝高度を上げすぎない(標高が高すぎる小屋泊は逆効果)
まずは五合目で”体を慣らす”


吉田ルートの五合目は標高約2,300m。
すでに吸入酸素分圧は平地の3/4まで下がっています。
しかし、ここまでバスや車で一気に上がるため、降りた直後は体がまだ低地モードのまま。
そのまますぐ登り始めると、体が高度に追いつく前に高いところへ突入してしまいます。
そこで山梨県は、五合目でしばらく過ごしてから登り始めるよう呼びかけています。
「高山病発症リスクを下げるには身体を標高に慣らすことが重要です。」
「五合目で栄養補給や荷物整理をしながら最低でも一時間ほど過ごし、身体を標高に慣らしましょう。」



たった1時間で本当に高山病が防げるの?
早く登りたいよ。



この疑問は確かに的確です。
この「1時間で急性高山病(AMS)が確実に減る」という直接の証拠は、まだありません。


2026年に「事前順応をどれくらいの時間実施すれば高山病を防げるのか」というシステマティックレビューが発表されました。
【組み入れ基準】
①常圧または低圧の低酸素曝露の対照研究
②研究デザイン・曝露時間・AMS発症率が明記
③事前順応後の高所滞在が8時間以上(AMSを正しく評価するため)
④アセタゾラミド(予防薬)非使用
その結果によると…
- 対象の事前順応時間:7〜104時間
- 対象標高:2,200〜5,000m
- 曝露時間とリスク減少の間に直線的な関係があり、回帰分析で分散の約76%を説明
レイクルイーズスコアで高山病の判定をした場合- 急性高山病リスク減少率(%)= 11.4 + 0.39 ×低酸素曝露時間
例:7時間事前順応すると、14.1%リスクを減らせる
- 急性高山病リスク減少率(%)= 11.4 + 0.39 ×低酸素曝露時間
- 累積約200時間で高山病(AMS)リスクがほぼゼロになると推定
Burtscher J, et al. J Travel Med. 2026; 33(3): taag009. PMID: 41609128
端的に言えば、事前順応として、高山病を減らす効果は「高所で過ごす時間が長いほど大きい」とされています。
注意
「急性高山病リスク減少率(%)= 39.2 + 0.39 ×低酸素曝露時間- 27.8」を使うと、1時間で約11.8%のリスク減少となってしまいますが、そもそも研究対象での最低順応時間が7時間なので、1時間を代入することは適切ではありません。
そもそも、本当に意味のある順応(血液の性質が変わるなど)は、1時間ではなく日単位でしか進みません。
ただし、体を低酸素に慣らす反応(呼吸を増やす換気応答など)は、着いて数分〜数時間で動き始めます。
Katayama K, et al. High Alt Med Biol. 2005;6(1):50-59. PMID: 15772500
つまり、五合目の1時間は、“順応の入り口”としては理にかなっている。
1時間で十分というより、余裕があるなら長いほどよい、という位置づけです。
そしてこの1時間には、順応以外の実利もあります。
- 自分の体調を確かめる時間になる
頭痛や気持ち悪さが出ていないか。 - 水分と食事をとる機会になる
脱水やカロリー不足は直接高山病に関与するわけではありませんが、登山中の体調不良の一因です。
1時間で完全に順応できるわけではありませんが、順応の入り口になり、害はなく、得るものもある。
だから僕も、この推奨には賛成です。
「急がば回れ」ですね。
山小屋泊での就寝高度を上げすぎない(標高が高すぎる小屋泊は逆効果)
前述の通り、最も高山病リスクが高くなるのは就寝です。
したがって、いきなり初日の就寝高度を上げすぎると、就寝中に高山病を発症します。
高所への耐性は個人の体質や事前順応の程度、当日の体調等によっても大きく左右されるため、一概にどの標高で寝るのがいいのか提案することはできません。
しかし、目安としては前述の以下の論文が参考になるでしょう。
富士山を登った1,932人を対象とした調査において、
- 標高2,870mより高い小屋に泊まった人は、2,815mより低い小屋に泊まった人より、有意に高山病が多かった (p < 0.001)。
Horiuchi M, et al. High Alt Med Biol. 2018;19(2):193-200. PMID: 29741971
絶対の正解があるわけではありませんが、就寝高度を”上げすぎない”という視点を持っておくと、山小屋選びの判断軸になります。
当然、標高が低い山小屋に泊まれば2日目の行程が長くなり体力的にはきつくなります。
- 体力に自信があるが、高所に弱い
→7合目前後で1泊して翌日登頂
もしくは、弾丸登山(日帰り登山)も選択肢になる(次章で解説) - 体力に自信はないが、高所には強い
→初日にできるだけ標高が高い山小屋に宿泊しておく - 体力に自信はなく、高所にも弱い
→2泊3日行程:5合目で1泊、8〜9合目でもう1泊して登頂
など、ご自身の状況に合わせたプランニングをすることで安全に快適に登頂する確率が上がります。
体調のセルフチェックには、パルスオキシメーター(SpO₂=血中酸素飽和度を測る機器)を持っていくこともオススメします。
ただし、SpO₂は”参考値”であって、これだけで高山病を診断できるものではありません。
数値が下がっていなくても、症状があれば高山病を疑うべきですし、逆もまた然り。
使い方の注意点はこちらで解説しています👇


パルスオキシメーターはネットで見ると値段がピンキリで選びにくいですよね。
ある程度の価格のものを買わないと数値の信頼性も低いですし、使い勝手が悪いです。
ちなみに、僕が使っているのは高所でも測定が安定していて、明るい屋外でも数値が見やすいタイプです。
少し値は張りますが、山で使うなら選ぶ価値があると感じています👇
\ 信頼性が高く、屋外でも視認性が高い /


富士山の登山ルールと弾丸登山 ── 高山病への影響は?
ここからは、2024年から導入、2025年から本格運用されている富士山の新しい通行ルールの話です。
一見「登山の自由を制限する規制」に見えます。
僕個人の考えとしても、本当に一律に規制をすべきなのかどうかは疑問があります。
2024年以降の規制は、2つの理由で導入されています。
- オーバーツーリズム対策
- 1日4,000人上限=混雑・環境負荷の管理
- 弾丸登山の規制
- 予防原則・機序に基づく判断:夜通し歩く=睡眠不足・疲労・夜間の寒さが重なる
オーバーツーリズムに対しては確かに環境保全の面からも一定の規制は必要でしょう。
では、弾丸登山は本当に規制すべき危険な行為なのでしょうか?
実は弾丸登山のほうが宿泊を伴う登山よりも危険であるという統計的な裏付けはありません。
予防原則・機序に基づく判断(夜通し歩く=睡眠不足・疲労・夜間の寒さが重なる)と目に見える危険行動を絞るという政策的判断によって規制が実施されています。
富士山吉田ルートのルール(要点)
- 開山期間は7月1日〜9月10日
- 通行料は1人1回4,000円(山小屋に泊まる人も含め、登る人全員が対象)
- 五合目の登山口にゲートを設置し、午後2時〜翌午前3時は登下山道を閉鎖(=夜通しの弾丸登山を物理的に制限)
- ただし山小屋の宿泊予約がある人は、午後2時以降もゲート通過が可能
- 登山者が1日4,000人に達した場合も登下山道を閉鎖(こちらも山小屋の宿泊者は除く)
- ゲートでは防寒具・上下セパレートの雨具・登山靴などの装備チェックあり
なお、静岡県側の3ルート(富士宮・御殿場・須走)でも同額の4,000円の入山料が必要です。
(出典:山梨県 令和8年度の富士登山について/静岡県 各3登山口における登山規制の実施/富士登山オフィシャルサイト)
※最新の運用は必ず公式サイトでご確認ください。
ポイントは、この規制が狙い撃ちにしている「弾丸登山」です。
弾丸登山とは?
弾丸登山とは、山小屋に泊まらず、夜通しで一気に登って日帰りする登り方です。
「時間もお金も節約できる」と人気で、規制の主な標的にもなっています。
なお、弾丸登山(夜通しで一気に登って日帰りする)の安全性を検証した文献はありませんので、今回のブログ記事では、弾丸登山≒日帰り登山として検証しています。
意外な事実 ── 弾丸登山で高山病は増えていない


「弾丸登山(≒日帰り登山)だから高山病になりやすい」というデータは、富士山には存在しません。
富士山で高山病を調べた研究を、いま出ているもの列挙します。
- 1,932人の調査:日帰りに比べて、山小屋に宿泊した人のほうが高山病が多かった
- 353人の調査:途中で一泊しても、高山病のリスクは必ずしも下がらないと結論
- 345人の調査:日帰りか山小屋泊かで、高山病に差はなかった
- 937人の調査:日帰りか泊まりかは高山病の予測因子として挙がらなかった。
Horiuchi M, et al. High Alt Med Biol. 2018;19(2):193-200. PMID: 29741971
Horiuchi M, et al. J Physiol Anthropol. 2021;40(1):6. PMID: 33962688
Horiuchi M, et al. J Travel Med. 2016;23(4):taw024. PMID: 27147731
Uno T, Horiuchi M. Wilderness Environ Med. 2026. PMID: 42393526
4本すべてが同じ方向を向いています。
日帰り登山で高山病が増えるという結果は、ひとつも出ていません。
理屈を考えれば、実は当然のことです。
高山病発症に最も大きな影響を与える行動因子は、“就寝高度”でしたよね。
弾丸登山は、そもそも高所で寝ません。
高所での就寝という最大のリスク因子が、存在しないのです。
体力に余裕がある人にとっては、高所で寝ない弾丸登山は、高山病対策としてはむしろ理にかなっている面すらあります。
では、弾丸登山の何が問題なのか ── 転倒と疲労
高山病でないなら、なぜ弾丸登山は問題なのか?
過去の文献からは「日帰り登山のほうが転倒が多い」ことが分かっています。
富士山を登った556人の転倒を調べた研究です。
- 30%が転倒していた(556人中167人)。原因の6割以上が”滑り”
- 転倒の危険因子として「山小屋に泊まらなかったこと」が挙がった
- 同じく「眠気」も危険因子だった
論文の結論は、「山小屋に泊まらなかった人は、転倒リスクの増加に注意すべき」
Uno T, et al. Int J Environ Res Public Health. 2019;16(21):4234. PMID: 31683707
そして、“疲労”
前述の2026年にUnoらによって報告された937人の研究では、疲労が「転倒」と「高山病」の両方の危険因子でした。疲労は「すべての山岳遭難の入り口」です。
弾丸登山のほうが遭難率が高いというデータはありませんが、上記の通り、睡眠不足と疲労から「転倒」につながっている可能性は高く、転倒の状況によっては大怪我→遭難につながるケースも多いと予想されます。
整理すると、こうなります。
- 高山病リスクは増えない(むしろ減る可能性が高い)
弾丸登山で増えるという根拠はない。高所で寝ない以上、むしろ軽減される可能性がある。
- 転倒・疲労遭難につながる
長時間行動ができる体力がない人が弾丸登山をすると、疲労と睡眠不足から遭難リスク↑
つまり、弾丸登山は、「高山病には有利に働く可能性がある」が、「体力が足りないまま夜通し歩くのはハイリスク」なんです。
「体力」と「高所への耐性」は別問題です。
- 体力は十分あるけど高所に弱い方
- 体力は全然ないけど、高所にはめっぽう強い方
それぞれの適正に合わせて弾丸登山(日帰り登山)をするのか、宿泊を伴う登山をするのか選択するのが本来のあり方です。
ただ、登山者側にも行政側にもこれらを正確に判断する術がないために一律に規制しているのでしょう。
高山病になったらどうする?


どれだけ気をつけても、高山病を100%は防げません。
大事なのは「なったときにどう動くか」です。原則はシンプルです。
- 症状が出たら、それ以上“高度を上げない”
まずはその場にとどまり、無理に登り続けないことが大切です
多くの場合には①②でしっかり休めば順応可能です。 - 口すぼめ呼吸を行い、体に酸素を取り込む
- 「口すぼめ呼吸って何?」という方はコチラをクリック
- 横になると高山病は悪化するので、必ず座って休む
- 良くならない・悪化するなら”下山する”
高度を下げることが、高山病の最も確実な治療 - 意識がおかしい・安静時も息切れ・まっすぐ歩けないは危険サイン!
ためらわず下山・救護所・救助要請へ
高山病予防・治療として、アセタゾラミド(ダイアモックス®)という薬が使われることがあります。
ただし、使う人・タイミング・用量には個別の判断が必要で、副作用もありますので、万人にはお勧めしません。
効果と副作用、誰に向くのかは、以下の記事にまとめています👇


また、「高山病かな?」と思っても、実は脱水や熱中症、寝不足による不調のことも少なくありません。
山での体調不良の”見分け方”はこちらが役立ちます👇


よくある質問(Q&A)


Q1. 体力に自信があれば高山病にならない?
いいえ。
高山病のなりやすさと”体力”には、明確な相関はありません。
むしろ体力自慢の人ほどペースを上げすぎて、順応が追いつかず高山病を発症することも…。
一方で、
「疲労度が高いほど、高山病発症リスクが高い」というデータはあります。
Uno T, Horiuchi M. Wilderness Environ Med. 2026. PMID: 42393526
前述の通り、“疲労はあらゆる山岳遭難の入口”です。
これは高山病予防の観点にも当てはまるようで、しっかりと体力をつけて余裕を持った登山をするというのは重要ですね。
Q2. 中高年の方が高山病リスクは高い?
いいえ。
近年の研究で、若年者の方が高山病リスクが高いことが明らかになってきました。
Horiuchi M, et al. High Alt Med Biol. 2024;25(2):140-148. PMID: 38416507
Uno T, Horiuchi M. Wilderness Environ Med. 2026. PMID: 42393526
多くの場合、登山において若年者と比較すると中高年の方が不利に働く事が多いですが、高山病に関しては逆です。
なぜ若い人のほうが高山病になりやすいのか、理由はまだわかっていません。
ただ、富士山の救護所のデータでも、受診者に占める高山病の割合は10代で約5割、20代で約3割と、若い世代ほど高い傾向がみられます。
Q3. 子ども連れで富士山に登っても大丈夫?
子どもは大人と同等以上に高山病リスクは高いです。
それ以外にも、以下のリスクもあります。
- 体力が低い
- 脱水になりやすい
- 低体温症になりやすい
- 未就学児では症状をうまく表現できない
子ども連れで富士山に登るのであれば、これらを大人が理解して、上手く調整してあげる必要があります。
子どもを対象にした調査は少数ですが、存在します。
日本旅行医学会が、富士山を下山してきた5〜12歳の子ども245人に聞き取り調査を行いました。
- 頭痛・吐き気・めまいなどの高山病症状が出たのは134人=約55%
- 五合目より高い場所で就寝した子どもほど、高山病を発症しやすい傾向がみられた
海外の研究でも、同じ傾向が確認されています。
- 富士山とほぼ同じ標高の台湾・玉山(3,952m)を3日間で登った11〜12歳96人の研究では、
- 高山病発症率は59%
- 子どもの発症率は大人より高い
と報告されています
- ネパールの研究では、3〜15歳 36人を対象に4,380mへ登山。
- 全体の高山病発症率:47.2%
- 2泊以上かけて登った子ども:高山病発症率25%
- 1泊で登った子ども:高山病発症率75%
同じ高さに登る場合でも、登り方で高山病発症率が1/3へ低下しています。
Chan CW, et al. J Travel Med. 2016;23(1):tav008. PMID: 26782126
Pradhan S, et al. Wilderness Environ Med. 2009;20(4):359-63. PMID: 20030445
高山病以外にも、子どもは体表面積/体重比が大きいため、熱を失いやすく、脱水にもなりやすいです。
高所は乾燥・寒冷環境であり、体力の低い子どもは容易に低体温症になりかねません。
さらにやっかいなのは、子どもは症状を自分でうまく訴えられないことがあります。
不機嫌が高山病、脱水、低体温症などの症状である可能性は十分にあるため、平地以上に注意を払ってあげてください。
少しでも子どもの様子がおかしければ、迷わず下山しましょう。
無理に登頂できたとしても、登山に対してネガティブな印象を植え付けるだけでいいことは何もありません。
Q4. 酸素缶は効きますか?
登山用品店などで売られている「酸素缶」
確かに酸素を吸っている間は効果的でしょう。
しかし、例えば、コチラの商品などは一般の酸素缶に比べるとかなり圧縮してあり、小さくても10Lの酸素を持ち運べるようですが、商品説明によると「ボタンの押し加減により持ち時間が変わりますが、目安としてボタンを押し続けた場合、約3分〜5分間使用可能」となっています。
ゆっくり酸素を出したとしても、わずか5分でなくなってしまいます。
使い切ってしまえば、また元の低酸素状態に戻ります。
サイズや重さを考慮すると、登山中に使うのはあまりにも効率が悪いです。
基本はゆっくり登る・就寝高度を上げすぎない・口すぼめ呼吸で酸素を取り込む・ダメなら下山するです。
Q5. 持病(心臓・肺・高血圧など)があるけど富士山に登れる?
一概に「ダメ」とは言えませんが、持病の内容と状態によっては慎重な判断が必要です。
高所では低酸素で心臓や血圧に負担がかかるため、一般的に血圧は上昇します。
さらに運動による心臓・肺への負担、脱水、低温、睡眠不足などが要因となり、山中で心臓突然死してしまう方が富士山にも毎年数名いらっしゃいます。
朝日新聞が山梨・静岡両県の資料から独自集計した2023〜2025年の3年間に富士山で発生したのべ363人の遭難データを公開しています。
| 事故原因 | 死者数 |
|---|---|
| 体調不良 | 16人(約2/3) |
| 転倒 | 2人 |
| 滑落 | 2人 |
| その他・不明 | 4人 |
| 合計 | 24人 |
上記データによると、富士山では2023〜2025年の3年間に24人が死亡し(全員男性・平均55.7歳・71%が3,000m超)、事故原因の3分の2にあたる16人が「体調不良」による急変でした(朝日新聞2026年7月1日/山梨・静岡両県の遭難記録の独自集計)。
それぞれの医学的死因は公表されていませんが、僕自身は体調不良のほとんどは心臓突然死であった可能性が高いと推測しています。
その根拠としては、以下の通り。
- 16名の全員が男性
- 年齢:38〜77歳(中央値59歳)と中高年が多い
- 1例のみ若年の38歳に関しても「病死とみられる」と記載あり
- 「突然意識を失って倒れた」パターンが多い
これらは全て山岳心臓突然死を示唆するデータです。
山梨県が実施した2025年のアンケートによると、
- 富士山が初めて68.6%
- 登山そのものが初めて22.0%
と登山初心者が多いにも関わらず、日本最高所・登山の中でも比較的行動時間が長いなど運動強度が強くなりがちであることから、登山中の心臓突然死が起こりやすいと推定されます。
「この体で富士山に登っていいか?」を事前に相談できる場を用意しています。
- 長野県松本市までお越しいただける方は松本協立病院 登山者検診・登山者外来へ。
- 松本まで来るのは大変 or すぐに相談だけでもしたいという方は、Tozan Medical Office オンライン医療相談をご活用ください。
血圧と高所の関係はこちらでも解説しています👇


まとめ ── 富士山は”ゆっくり登り、寝る高さを上げすぎない”
まとめです!
いろいろお話ししましたが、高山病を考えるうえで大切なポイントは以下の3つ
- 高山病は「登った高度」ではなく、「寝た高度」が最も大きな影響を与える
- 「体力」と「高所耐性」は別問題
- 弾丸登山の本当のリスクは高山病ではなく、疲労・転倒リスクの増加
- 高山病は「体質×高度(酸素)」の問題
- 登山行程の設計で予防できる
- ❌️体力がなく、❌️高所にも弱い
→2泊以上かけてゆっくり順応しながら登頂をめざす - ❌️体力はないが、⭕️高所には強い
→体力に合わせて1泊以上かけて登りましょう - ⭕️体力はあるが、❌️高所に弱い人
→日帰り登山がオススメ(規制の時間内で登降できる体力がある場合) - ⭕️体力はあるし、⭕️高所にも強い
→体調さえ万全ならどんな登り方でも問題はないでしょう
そして、富士山の高山病対策で覚えてほしい柱はたった2つです👇
- ゆっくり登る=就寝高度を上げすぎない
- 就寝高度こそが高山病対策の本質
- 高山病になってしまったら、まずはその場に留まって口すぼめ呼吸
- 回復しなければ、下山する
富士山は日本最高所であり、体力的にもそれなりに厳しい山です。
しかし、しっかり準備して登れば、日本一を味わえる最高の山です。
是非、万全の対策をして、日本人なら1度は富士山の山頂を目指しましょう!
最後まで閲覧いただきありがとうございました!
※本記事は医療情報の提供を目的としており、個別の医療行為を推奨するものではありません。パルスオキシメーターの数値は参考値であり、高山病の診断・重症度判定を代替するものではありません。実際の症状や治療、薬の使用については、必ず医師・医療機関にご相談ください。富士登山の規制内容は変更されることがあるため、最新情報は必ず公式サイトでご確認ください。


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