毎週火曜日に新規記事を更新予定。お楽しみに(^_^)

夏山で低体温症になる2つの理由|”濡れ×風”と”寒さに気づけない”

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目次

はじめに

こんにちは!市川です!

僕の自己紹介はコチラ

循環器内科医としての病院勤務の傍らで、国際山岳医(DiMM)として以下のような活動をしています。

✔️登山者検診/登山者外来による予防・登山サポート
✔️赤岳鉱泉山岳診療所を運営
(日本で唯一冬季診療も行っている診療所)

さらに「医療から登山をもっと安全に」をミッションとしてブログを通じて登山における医学的内容を発信しています。

2026年5月末〜Tozan Medical Officeを立ち上げました。
まずはTozan Medical Consulting〜登山×医療相談〜という名の登山者に対する個別のオンライン面談を開始しています。興味がある方はぜひこちらのリンクから詳細をご覧ください😊

今日のテーマはこちら👇
「夏でも低体温症に注意!」です。

“夏でも低体温症になる”こと は知っていても、本当に「自分ごと化」ができていますか?

2009年7月のトムラウシ山遭難事故をきっかけに、「夏でも低体温症で亡くなることがある」という事実は、登山者のあいだでも広く知られるようになりました。
山岳雑誌の特集、SNSの啓発、登山系YouTubeでも繰り返し語られています。

でも、僕が現場で感じるのは、
「低体温症になっている登山者の多くが、自分が低体温症であると認識できていない・・・・・・・・
ということです。

知識として「夏でも低体温症」を知っていても、その先の問いに答えられる登山者は意外と少ない、んですよね。

事実、長野県警が毎年出している「山岳遭難統計」をみると、低体温症事例は近年増加傾向となっています。

長野県警 山岳遭難統計より引用・筆者作図

皆さんは、以下の質問を説明できますか?

  • “なぜ夏でも低体温症になるのか?” 
  • “低体温症の初期症状は?”
  • “低体温症かも?と思ったらまず何をしますか?”
  • “低体温症の方の手足を温めてはいけないって知ってますか?”
  • “寒くて震えているとき、冷たいコーラと温かいお湯のどちらが効果的ですか?”

今回の記事では上記疑問を解消しつつ、
「知っている」と「防げる」の間にある大きな溝をできるだけ埋められるよう構成しました。

今回の記事でわかること
  • 夏の低体温症=”濡れ×風”が原因
  • 低体温症の初期症状は”ふるえ”ではなく”運動障害”
  • 低体温症予防の2大原則”熱産生×隔離”
  • 低体温症になってしまったら…隔離、保温、加温、カロリー補給

たくさん覚えるのではなく、たった2つの原則に集約してお伝えします。
「夏も低体温症」を、知識から判断軸へ。一緒にアップデートしていきましょう!

夏山登山で低体温症の理由 ── “濡れ×風”と”寒さに鈍感になる”

夏山登山で低体温症の理由は、大きく分けて2つあります。

  • 寒冷環境要因
    風 × 濡れ = 想定以上の熱喪失
  • 生理的要因
    登山中(運動中)には体温低下を感じにくい

例えば、冬山梅雨の山では低体温症のリスクが高いのはどちらでしょう?

絶対数で言えば、八甲田山(1902年)・薬師岳(1963年)など歴史的な大量遭難の多くは冬季に起きています。
冬山が危険なのは間違いありません。

ただ、僕が強調したいのは“「濡れ×風」を侮るな”ということです。

トムラウシ山遭難事故(2009年7月、死者8名)は、気温が氷点下を上回っていても、濡れと風が揃えば命を奪うことを残酷に示した事例でした。

  • 低温:標高が1000m上がると気温は6℃低下
    3000m級の稜線では下界よりも18℃気温が低い
  • 濡れ:水の熱伝導率は空気の約25倍
    衣服が濡れた瞬間、体表からの熱の逃げ方は桁違いに速くなります。
  • 風:風速1m/sで体感温度が約1℃低下する
    気温10℃の稜線でも、風速10m/sなら体感は0℃。
    さらに全身が濡れていれば、気化熱+対流により熱喪失速度はそれよりずっと厳しい状況になります。

つまり、
「夏でも高山では気温は高くない」かつ

濡れ × 風 = 想定以上の熱喪失が発生します。

この方程式が成立する場所は、北アルプスなどの標高の高い高山です。
冬山と違い“濡れやすい”という別の意味で、決して油断できません。
特に梅雨時や秋雨シーズンはより注意が必要です。

登山中(運動中)には体温低下を感じにくい

運動中には…

  1. 寒さを感じにくくなる(深部体温の温度感覚が鈍化する)
  2. “ふるえ”が起こりにくくなる

運動中は低体温症に気が付きにくい!

近年、この「気づけない」の正体に直接迫った日本の研究があります。

藤本らは、健康成人を対象に低強度運動時と安静時で、同じ深部温低下に対する寒さの感じ方を比較しました。

その結果、

  • 運動時には安静時よりも、深部温が下がっても寒さを感じにくくなる
  • 運動による温度感覚の鈍化は、「寒くないから上着を着ない」「ペースを落とさない」といった行動選択ミスを助長し、低体温症発症の危険性を高める

Fujimoto T et al. Physiol Behav. 2021; 240: 113531.

  • ふるえ開始の深部温閾値が低体温側にシフトする
  • 運動強度が上がるほど、ふるえ反応性が小さくなる

藤本 知臣, 新潟医療福祉学会誌. 2023年 23巻2号p.2-8

つまり、「運動中には深部体温が下がっても気が付きにくく、運動強度が強ければ強いほど震えも出にくいため、余計に低体温を誤認する」ということです。
これが、登山中に低体温症が静かに進行する最大の理由の一つ。
自分の感覚を信用してはいけません。

実際に山岳診療所で勤務していても、低体温症で受診する方のほとんどが”自分が低体温症だ”と認識できていません。

低体温症のサインを見抜く ── 初期症状は”震え”ではなく”運動障害”

低体温症のいちばん最初のサイン、何だと思いますか?
「震え」と答える人がほとんどです。
でも、それは少し違います。

実は震えよりも先に現れるサインがあって、それが”運動障害”です。

  • 手指の細かい動きができなくなる(ファスナーを上げられない、雨蓋を閉められない)
  • 岩場でつまずく
  • 歩行のリズムが崩れる

──これらは深部体温が35℃前後に下がりはじめた段階で出てくる、最も早いシグナルです。

実際に赤岳鉱泉山岳診療所での低体温症受診例も以下の通り。
「震えあり」はわずか10%
✔ 「運動障害あり」は60%

そのため、ほとんどの方が自分は低体温症だと認識していません

もともと震えの有無に関しては個体差が大きいとされていますが、前項のとおり「登山中(運動中)には震えが出にくい」ということも関係していると考えます。

👉 詳しいチェック法は過去記事「低体温症の初期症状は震えではなく”運動障害”!命を守るチェック法」で解説しています。あわせて読んでみてください。

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これらの自験例からもわかるとおり、

低体温症は、本人ではほぼ気づけません。

これが低体温症の最も恐ろしいところです。

判断力も同時に低下していくため、「自分はまだ大丈夫」と思い込んだまま症状が進んでいきます。だからパーティの仲間が早期に気づくことが、非常に大切なのです。
同行者の「いつもと違う動き」を見逃さない──これが低体温症対策の出発点です。

低体温症対策の”2大原則”

低体温症の装備・対策の話を始めると、レインウェアの素材だの、化繊かメリノか、行動食はどれが──と細かい議論になってしまうと、そんなことは覚えられないですよね。

どんなことでもまずは原則を覚えるのが大切です。
枝葉の知識は追々つけていけば問題ありません。

野外環境での体温維持に関しては考えるべき原則は2つだけです。

  • ⭕️ 熱産生を保つ ── 体内で熱を作り続ける(運動+カロリー)
  • ⭕️ 寒冷環境から隔離する ── 体と外気の間にバリアを作る(断熱+防水+防風)

これだけ。
装備選びも、行動食も、それ以外の対処法も、すべてこの2つの原則のどちらかに必ず分類できます。

登山者の体温は“寒冷環境”“寒冷環境からの隔離+熱産生”のバランスで決まります。

❄️寒冷環境が上回れば、体温は低下➜低体温症を発症
🔥熱産生+⛰️野外からの隔離が上回れば、体温は維持される

原則だけだと、具体性がなくて分かりづらいと思うので、この原則を踏まえつつ、次項からそれぞれについて解説していきます。

原則① 熱産生 ── 運動とカロリーで熱を生み出し続ける

体内で熱を作る方法は、突き詰めると2つしかありません。
“動くこと”“食べること”です。

動き続けることが最大の発熱源

運動時の発熱量は安静時の5〜10倍にもなります。

だから歩いている間は、体は猛烈に熱を生み出している状態。逆に言うと、「寒くなった」と感じて立ち止まった瞬間に、最大の熱源を自分でスイッチオフしていることになります。

原則は「寒い時こそ動く」
一方で、動き続けるには「体力」「カロリー」が必要になります。

そういう意味でも、低体温症予防の大半は登山前に決まっています。
事前の体力づくり行動食を含めた装備・食料計画が非常に大切ですね。

一部のエナジージェルを除いて、カロリーを摂るためには運動を止める必要があります。
風雨の中で休憩するとき・止まる時は、必ずシェルターやツェルトの中で、風と濡れを断ってから止まる──これが鉄則です。

カロリー摂取が体温維持の肝

🍵 ここでクイズです。
体が冷えているあなたに、目の前に2つの飲み物があります。

👉 冷たいコーラ(4℃)300mL温かいお湯(60℃)300mL、どちらの方が体を温めると思いますか?

「もちろん熱いお湯でしょ?!」と思いましたか?
ところが、純粋に熱産生量で比べると答えは”冷たいコーラ”の圧勝なんです。

飲み物(300mL)温かいお湯(60℃)冷たいコーラ(4℃)
直接の熱量(体温との差)+約7kcal−約10kcal
糖質代謝による発熱0kcal+約132kcal
体への正味の熱供給+約7kcal+約122kcal

体重60kgの人の場合
体の熱容量 = 体重(kg)×身体の比熱0.83kcal/(kg・℃)≒60 × 0.83 = 約50 kcal/℃

つまり、体温を1℃上げるのに約50kcal必要ということになります。

飲み物(300mL)正味の熱量理論上の体温上昇
温かいお湯(60℃)+7kcal+約0.14℃
冷たいコーラ(4℃)+122kcal+約2.4℃

その差は約17倍

つまり熱産生の主役は”温度”ではなく”カロリー(糖質)”なのです。お湯そのものの熱量は、お腹を一回温めて終わり。コーラの中の糖質は、体内で代謝されて持続的な熱源になります。

とはいえ実践面では話が別です。

  • 冷たい飲み物は胃を冷やして消化管の動きを鈍らせること
  • 不快感でそもそも摂取量が減ること

──この2点があります。

だから、現場でのベストは、「温かい糖質入り飲料」
温度差での熱量は気休めでも、心理的な飲みやすさで結果的に多く飲めます
これが最大の利点です。
一概に理論的に正しいことと=実践で正しいというわけでもないのでそのあたりは柔軟な対応が大切ですね。

行動食も同じ理屈で、寒冷環境では炭水化物を優先が望ましいです。
脂質・タンパク質は持続性はありますが、寒冷下では消化が遅れます。

「行動中のカロリー不足こそ低体温症の引き金」という点については、こちらの過去記事もどうぞ👇️

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原則② 熱を逃がさない ── 熱の移動経路を断つ3つのバリア

次は寒冷隔離の話です。
体から熱が逃げる経路は、物理的に4つしかありません。

  • 伝導:濡れた服、冷たい岩への接触
  • 対流:風によって温まった空気が運び去られる
  • 輻射:体表から赤外線として放出
  • 蒸発:汗・濡れが気化する時に体熱を奪う(気化熱)

詳しくは過去記事「体から熱が奪われる4つの仕組み」をどうぞ。

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この4つを3つのバリアで防ぐ、というのが寒冷隔離の考え方です。

バリア① 断熱 ── 伝導と輻射を防ぐ

体表と外気の間に空気の層を作ってやることが基本です。空気は熱伝導率がとても低いので、最強の断熱材です。

  • ベース:化繊・メリノウール(濡れても保温力が落ちにくい)
  • ミドル:フリース・化繊インサレーション
  • 休憩時・ビバーク時には地面からの断熱(=マットやザックを敷く)が最重要

バリア② 防水 ── 蒸発冷却を防ぐ

濡れこそ梅雨の山の最大の敵。最初の一滴を体に当てない・染みさせないことが至上命題です。

  • レインウェアは「濡れる前に着る」──降り出してから着るのでは遅い
  • ツェルトは雨を断つ最後の砦。これがないと風雨の中で休憩できません。ザックに必ず1枚装備しましょう。
  • ザック内の予備衣類はドライバッグ・ジップロックで完全防水

バリア③ 防風 ── 対流を防ぐ

風冷の効果は前述のとおり強烈です。レインウェアが防風も兼ねますが、晴れていても稜線では薄手のウィンドシェルが1枚あると安心です。

  • ウィンドシェル(超軽量・速乾)を予備に
  • 稜線・コルでは風を避けるルート選択(風下側を歩く)
  • 休憩は風を切れる場所で。岩陰・ツェルト内が原則

💡 上級者コラム:VBLという選択肢

長期縦走や雪稜・冬季テント泊では、VBL(Vapor Barrier Liner/気密層)という発想が役に立ちます。

VBLとは、あえて内側に非透過性のレイアリングを着込んで、ムレムレにすることで濡れた状態のまま、汗の蒸発自体を抑え込むテクニックです。

簡潔にいうと、「蒸発による熱損失は、液体が気化する際に気化熱を奪うためなので、湿度100%では気化しない=気化熱が損失しない」ということです。

蒸発冷却が起こらないので体温が安定し、断熱材(ダウン・化繊)に汗が染み込んで性能が落ちる事も防げます。

この手法はもともとアラスカなどの極寒地で生まれた防寒システムらしいですが、単なる経験則ではなく、種々の研究でその効果が実証されています。

VBLを低体温患者の保温に使うと、再加温が本当に速くなるのか? を野外で検証したノルウェーのRCT

  • 方法:健康成人16名に濡れた服を着せ、雪室で30分冷却 → 「ブリトー巻き(burrito model)」で包む。①VBLあり vs ②VBLなしのクロスオーバーRCT。主要評価項目=平均皮膚温。
  • 結果
    • VBL群は約25分後から平均皮膚温が有意に高い(p<0.05)、その差は60分間持続
    • 最大差は60分後で0.93℃
    • VBL外側の湿度は、VBLなし群の方が5分後から有意に高い(=VBLが湿気を遮断している証拠)
    • 主観的快適感は有意差なしだが、VBL群で快適性が高い傾向
  • 結論濡れた服を着た低体温リスク患者では、最内層にVBLを併用すると皮膚の再加温が速くなる

Mydske S, et al. Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2024; 32(1): 35.

寒冷下で濡れた服しかない時、「服を脱がせる」のと「VBLで包む」のどちらが有効か? を比較した実験

  • 目的:限られた断熱材しかない寒冷環境で、ふるえている被験者に対し、“濡れ衣服の除去” vs “VBL追加”の効果を評価
  • 方法:濡れた服を着た成人8名を−18.5℃の気候室でバックボードに固定。20分冷却後、30分間、4条件をクロスオーバー:
    1. 毛布1枚
    2. VBL+毛布1枚
    3. 濡れ服を脱がせる+毛布1枚
    4. 毛布2枚
  • 結果
    • 濡れ服除去 or VBL追加で、代謝率(ふるえによる熱産生の負担)が有意に低下(平均差14±4.7 W/m²)
      • 皮膚温の再加温も改善(+1.0±0.2℃)
      • 毛布2枚と同等の効果
    • VBL追加は寒さの不快感を有意に軽減(毛布1枚のみより快適)
    • 深部体温・心拍数には条件間で有意差なし
  • 結論長引く救助場面で断熱材が乏しい時、”濡れた服を脱がせる” か “VBLを使う” ことで、ふるえの負担を減らし患者の状態を改善できる。寒冷下で服を脱がせるのが困難な現場では、VBLが現実的な代替手段になる。

Henriksson O, et al. Wilderness Environ Med. 2015; 26(1): 11-20.

詳細は過去記事「VBLとは?|濡れるのになぜ暖かい?」をどうぞ。

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もし低体温症になったら ── 現場対処の優先順位

仲間が低体温症のサインを示し始めた時、何から手をつけるべきか。
パニックにならないよう、優先順位を決めて対応しましょう。

  • 低体温症の重症度を推し量る:軽症なのか中等症以上なのか
    • 中等症なら救助要請+水平搬送
  • 寒冷環境からの避難:山小屋に逃げこむ、ツェルトに包まる
  • 保温・加温・カロリー補給
    • 保温≒隔離:断熱・防水・防風
    • 加温:胸部=コア臓器を優先
    • カロリー補給(軽症=意識清明時のみ)

①低体温症の重症度を推し量る

低体温症は軽症までであれば、自己回復可能です。
一方で、中等症以上になると死亡率が40%というデータもあり、自助・共助では限界があります。
速やかに救助要請をしつつ、以下の対応でこれ以上重症化しないように凌ぐほかありません。

では、軽症と中等症以上の境目は何か?

「受け答えがはっきりしているかどうか≒意識清明かどうか」です。

寒くて震えていようが、運動障害が出ていていようが、「意識がはっきりして、受け答えが正常」であれば軽症の可能性が高く、以下の対応で回復する可能性が高いです。

一方で、「受け答えが曖昧」、「性格が変わったように怒りっぽくなった」
これらは意識障害を示しており、中等症≒不用意に動かすと突然死のリスクもあり非常に危険な状態です。
すぐに救助要請を行い、以下の対処で救助隊到着まで凌ぎましょう。

中等症以上なら救助要請+水平搬送が基本

震えが止まっている、意識が朦朧としている、自力歩行できない──これらは中等症以上になっていることを意味しており、現場での対処の限界を超えています。

  • 速やかに救助要請
  • 上体を起こしたり激しく動かしたりしない(afterdropの引き金)
  • できる限り水平に搬送してもらう
    • 救助現場の状況によって水平搬送<背負い搬送を優先せざるを得ないこともあります

②まずは”寒冷環境からの避難”

さて、重症度を推定したら、具体的に行う対処は、まずは“寒冷環境からの避難”です。

まず雨と風を断つ

近くに山小屋があれば逃げ込む手段を考えましょう。
それが難しければ、とりあえずツェルトを頭からかぶって、風雨を凌ぎましょう

これらを行わないと、具体的な低体温症に対する対処(保温・加温・カロリー補給)がままならず、むしろ停滞することで低体温症が悪化してしまう可能性が高いです。

保温・加温・カロリー補給

保温 ── 予防原則②の3つのバリアをそのまま使う

保温とは、予防で出てきた隔離=断熱、防水、防風と同じです。

保温とは、「いかに自分の体温をこれ以上下げない」ようにすることです。
4つの熱移動経路を意識して、3つのバリア(断熱・防水・防風)をうまく使って、コレを行います。

防水=濡れ対策については、低体温症状態ではすでに濡れていることがほとんどでしょう。
濡れた服はできれば脱がせて乾いた服に着替えさせるのがベターです。
山小屋であれば着替えは可能でしょうが、さすがにツェルト内では厳しいものがありますし、仮に着替えても風雨の中で行動を再開するとたちまち濡れてしまいます。

その場合には、防寒着の下にエマージェンシーシートなどの非透湿性素材で上半身を包むことでVBL効果を利用したほうが、無理に脱がせて寒冷暴露を増やすより安全であることが、実験的にも示されています。
その上から、防寒着、レインウェア、ツェルトで断熱と防風・防水を重ねます。

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加温は”上半身のコア臓器”が最重要

加温とは、本人以外の熱源を用いて積極的に温めることです。
代表的なものは、“湯たんぽ”ですね。

山中であっても、プラティパス+タオル/手ぬぐいなどで簡易湯たんぽを作ることができます。

絶対に注意すべき加温に関する注意点があります。
加温する場所の「優先順位は胸部=心臓などのコア臓器から」です。
決して手足を優先的に温めてはいけません


低体温症患者を温める時、つい手足からマッサージしたくなります。
あるいは、お風呂が入れる山小屋であればお風呂に入れてしまうのが一番よさそうですよね。

実は、これは絶対にやってはいけない処置の一つです。

  • 手足を温める
  • お風呂に入れる(温水浸漬)

理由はRewarming Shock(再加温時の循環虚脱)と呼ばれる現象です。
冷えた末梢血管を温めると、そこに溜まっていた冷たい血液が一気に心臓に戻る
これが急激な体温低下(afterdrop)と、ひどい時は致死的不整脈を引き起こし、突然死する可能性があります。
だから、加温は必ず体幹=心臓を中心に行います。

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カロリー補給:意識清明時のみ

予防の項で説明したように、カロリー摂取は熱産生・体温維持の肝です。

意識がはっきりしていて飲み込めるなら、温かい糖入り飲料(ココア・スポーツドリンク等)やラムネなど糖質を少しずつ摂取させましょう。

意識がはっきりしていない≒中等症以上では、誤嚥・窒息のリスクもあるため、飲食は基本的に禁止になります。

セントバーナードとブランデー樽の話

低体温症に対して飲酒で身体を温めるという都市伝説があります。

スイス・グレートセントバーナード峠の修道院で、雪山遭難者を捜索する救助犬セントバーナード

その首にブランデーの小樽を下げ、遭難者に飲ませて温めた、という逸話がありますね。

コレ、実は作り話らしいですね😅


アルコールは末梢血管を広げることで、手足がポカポカする感じはするかもしれません。
しかし、実際には・・・

  • 末梢血管が拡張➜深部体温はより低下
  • ふるえの抑制
  • 判断力の低下
  • 血糖値の低下:熱産生の材料が奪われる

このような現象が起こることで、低体温症は悪化します!絶対にやめてください。

軽症までであれば、避難、保温・加温・カロリー補給を行うことで、しばらくすると低体温状態から復活して、自力で歩けるようになる可能性は十分にあります。

一方で、中等症以上では繰り返しになりますが、上体を起こすことそのものが不整脈による死亡リスクを引き上げます。避難、保温・加温を行いつつ、救助を待ちましょう

まとめ ── 夏山こそ”濡れと風”に注意!

まとめです!

なんだかんだと長くなってしまいましたが、この記事で覚えてほしいことはたった2つです👇
低体温症は予防できます。
そのために重要なことは以下の2つを守ってください。

  • 原則① 熱産生:運動+カロリー
  • 原則② 寒冷隔離:断熱+防水+防風

そして大切な合言葉を3つ👇

  • 初期サインは「震えではなく運動障害」、見抜くのは仲間
  • 現場対処は重症度推定→避難→保温・加温(コア優先)・カロリーの順
  • 加温は上半身のコアに。手足から温めるのは禁忌

夏山は、装備が整っていれば最高に楽しいシーズンでもあります。
雨に濡れた苔の緑、霧に包まれた稜線──、その隙間から見える一瞬の絶景。
その美しさを楽しむためにも、「濡れと風を断つ」準備、そしてベースとなる体力づくりだけは妥協しないでください。

しっかり学んで行動して備えれば、楽しく安全に美しい稜線を歩けます!
最後まで閲覧いただきありがとうございました!

※本記事は医療情報の提供を目的としており、個別の医療行為を推奨するものではありません。実際の症状や治療については、必ず医師・医療機関にご相談ください。

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