はじめに
こんにちは!市川です!
僕の自己紹介はコチラ

循環器内科医としての病院勤務の傍らで、国際山岳医(DiMM)として以下のような活動をしています。
✔️登山者検診/登山者外来による予防・登山サポート
✔️赤岳鉱泉山岳診療所を運営(日本で唯一冬季診療も行っている診療所)
さらに「医療から登山をもっと安全に」をミッションとしてブログを通じて登山における医学的内容を発信しています。
2026年5月末〜Tozan Medical Officeを立ち上げました。
「山岳医療を、相談できる距離に。」
まずはTozan Medical Consulting〜登山×医療相談〜という名の登山者に対する個別のオンライン面談を開始しています。興味がある方はぜひこちらのリンクから詳細をご覧ください😊
今日のテーマはこちら👇
「登山中の胸の違和感・息切れ。どうするべき?」です。
山では、急登で息が切れ、汗をかき、脚が止まりそうになることがあります。
多くは運動に伴う生理反応です。
ただ、そのなかに心臓からの悲鳴=急性心筋梗塞が混じっても、登山者本人が区別をつけられないことがあります。
心筋梗塞発症時に「心臓が原因の症状だと」気がつけるのか?
16か国25研究をメタ解析、心筋梗塞などの急性冠症候群の患者14,843人を対象に調査した結果、
- 自分の症状を心臓が原因と感じた人は45.1%
- 半数以上は心臓が原因とは考えていなかった
23か国の研究をまとめた系統的レビューでは、
- 症状を心臓由来・重い状態と受け止めた人は、病院受診までの時間が短い傾向があった
Birnbach B, et al. BMC Cardiovasc Disord. 2020;20:445. PMID: 33054718
Arrebola-Moreno M, et al. Int J Nurs Stud. 2020;108:103613. PMID: 32473396
これらは日本人登山者の割合ではありませんが、一般的に、心筋梗塞を経験した人の多くは、自分の症状を心臓の問題だと結びつけられないことが多いのだと分かります。
個人的には、登山者は特にこの傾向が強い印象です。

僕がやっている登山者外来には、心筋梗塞を経験した後、登山への復帰を希望して受診される方が多くいらっしゃいます。
それらも踏まえた僕の過去の診療経験として、
心筋梗塞を発症したときに、”心筋梗塞かもしれない”と認識していた方は、ほとんどいません。
病院を受診して、初めて、ことの重大さに気がつくケースが多いのが実情です。
この認知の違い=“心筋梗塞の胸痛は必ずしも重症感はない”という事実
是非、登山者の皆さんに知っていただきたく今回の記事を作成しました。
僕自身これまでの20年近い臨床経験で、
我慢強かったがために…
- 重症化してしまい命を失った方
- 受診が遅れて、命は助かったものの心臓に大きな後遺症を抱えて、心不全入院を繰り返すようになってしまった方
こういう方々を多く診てきました。



自分は登山をしている(=運動習慣がある)から、心筋梗塞なんてならないのでは?
もしかするとこんな風に思っている方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
心筋梗塞を発症した登山者が皆、不摂生なメタボ体型かというと、意外とそうでもないケースも多くみとめます。
現在僕は、登山者外来や登山×医療相談(Tozan Medical Office)で心筋梗塞を患ってしまった登山者の登山再開サポートをしています。
彼らの話を聞いていると、以下のような問題が浮き上がってきます。
- 登山者は運動習慣がある=健康に自信がある
- 登山者は我慢強い
- 急性心筋梗塞の症状は、一般に認知されているような重症感が少ない
その結果として、登山者が心筋梗塞を起こしても認知できず、我慢して登山を継続することで…
- 山中で死に至る
- 命が助かっても心臓に大きな後遺症を残してしまう
ということにつながります。
今回の記事のテーマは、
- 急性心筋梗塞の症状は、一般に認知されているような”重症感は少ない”
これを皆さんの頭にインプットすることです。
急性心筋梗塞は誰もが発症する可能性があります。
そのときに重要なのは「1分でも早く病院にたどり着く」こと。
そのために、いち早く「正確に認知して」「行動に移す」ことができるように、皆さんで知識をアップデートしていきましょう!
- 急性心筋梗塞はどんな症状が多い?
- そもそも心筋梗塞とはどんな病気か?
- 休むと症状が治まる=心臓の病気を除外できない
- スマートウォッチでは、心筋梗塞の診断は難しい
急性心筋梗塞は、どんな症状?


急性心筋梗塞と聞くと、「突然、胸を押さえて強く苦しみ、その場で倒れる」というテレビドラマのような場面を思い浮かべる方もいると思います。
しかし、実際の心筋梗塞は、もっと地味な始まり方です。
「胸が痛いというよりも、重苦しい」
「今日は妙に息が切れる」
こうした訴えこそが、心筋梗塞の典型的な症状です。



我慢できる程度だから大丈夫、と判断しないことが大切です。
「心筋梗塞の症状≠胸痛」:圧迫感・締めつけ・重苦しさが典型的症状
心筋梗塞の代表的な症状といえば、「胸痛」と表現されますが、実際に心筋梗塞の方で「胸が痛い」と表現される方はあまりいません。
急性心筋梗塞の代表的な症状は、
胸全体が押される、締めつけられる、重い、詰まるような感じ
です。
キーワードは「胸全体」+「胸部圧迫感」になります。
胸部症状の場所は”胸全体”=どこかはっきりしない
心筋梗塞の症状はなんとも言えない嫌な感じであり、どこが痛いのかはっきりしません。
多くの患者さんは「ココが痛い」とピンポイントで胸を指し示すことはなく、「この辺が重い感じ」と手のひらで胸をさするような動作をします。
これをPalm sign(手のひらサイン)といって、心筋梗塞を疑う医学的所見の一つとされています。



逆に僕は普段の診療で「ココが痛い」とピンポイントで胸を指さす人を診たときには、「多分心筋梗塞ではなさそうだな」と考えながら診察・検査を行いますし、実際にその感覚はほぼ的中します。
典型的な胸部症状は”圧迫感”≒なんとも言えない胸の不快感
急性心筋梗塞により、激痛で動けなくなることはほぼありません。
むしろ、そういう場合には大動脈解離など別の病気を疑います。
心筋梗塞の症状はなんとも言えない嫌な感じであり、「圧迫される感じ、重たい感じ、締め付けられる感じ」とされています。
患者さんに症状を聞くと一番よく言われるのは「なんとも言えない胸の不快感」です。
我々、医師が用いる「胸痛」という用語と、実際の患者さんが用いる言葉とは少し違います。
救急外来で急性冠症候群(ACS:Acute Coronary Syndrome)と診断された301人に症状を調査した研究では、胸痛だけでなく、胸の不快感、胸の圧迫感という表現がほぼ同じくらい多く使われていました。
- 急性冠症候群(ACS)とは、急性心筋梗塞、不安定狭心症をあわせた概念ですが、急性心筋梗塞とほぼ同義と思ってもらって問題はありません。
| 患者さんが使った胸の症状の表現 | ACS 301人のうち |
|---|---|
| 胸痛(chest pain) | 71% |
| 胸の不快感(chest discomfort) | 68% |
| 胸の圧迫感(chest pressure) | 64% |
DeVon HA, et al. J Am Heart Assoc. 2014;3:e000586. PMID: 24695650
上記3つの症状だけで100%を超えてしまいますが、これは同じ人が複数の表現をしているためです。



つまり、前述のように「なんとも言えない不快感」というのが最も心筋梗塞の症状を表しているのではないでしょうか。
心筋梗塞では、”胸以外”にも症状が出る
“放散痛”と言って、肩・腕・背中・喉元・あご・みぞおちに痛みや不快感が出ることもあります。
痛みは強くないが不快感は強いので、“冷汗”を伴うことが多いです。
これは「内臓痛と体性痛の神経入力が脊髄で同じニューロンに収束するため、脳が痛みの発生源を誤認する」ことによるとされています。
つまり、「内臓痛=心臓由来の痛み」と「体性痛=肩や腕などの皮膚の痛み」を感じるニューロンが一緒であることから脳が誤認識して、腕や肩、首、あごといった部位の痛みを感じてしまうのです。
中には「胃が痛い」あるいは「奥歯(あご)が痛い」と受診されて、心筋梗塞だったことも珍しくはありません。
また、不快感そのものはかなり強いので、「冷汗」を伴うことも多いです。
実際にどんな症状がどれくらいある?
初回の急性心筋梗塞で入院した2,157人に発症時の症状を調査した研究では、次のような結果でした。
| 症状 | 症状があった人の割合 |
|---|---|
| 胸の痛み・圧迫感・締めつけ感 | 94.1% |
| 発汗 | 61.0% |
| 左肩・左腕・左手の痛み | 56.7% |
| 息切れ・息苦しさ | 48.5% |
| 吐き気 | 36.3% |
| 右肩・右腕・右手の痛み | 31.3% |
| のど・あごの痛み | 31.1% |
| 左右の肩甲骨の間の痛み | 27.0% |
| めまい | 21.0% |
| 嘔吐 | 13.1% |
| みぞおちなど、上腹部の痛み | 11.1% |
対象はドイツで初めて心筋梗塞を発症し、入院中に聞き取りができた25〜74歳の患者です。複数の症状を回答できるため、合計は100%を超えます。
Kirchberger I, et al. J Intern Med. 2011;270(1):58–64. Table 2.(PMID: 21338424)
発汗(冷汗)や左肩・喉・あごの痛みといった放散痛も決して少なくないことがわかります。
そもそも、急性心筋梗塞とは?何が起きている病気?


急性心筋梗塞とは、冠動脈の動脈硬化が破綻することで突然血栓が形成されて、血栓によって、血流が途絶えたり、高度狭窄することで、心筋が傷つき、壊死してしまう病気です。
正確には、急性冠症候群(ACS: Acute Coronary Syndrome)という疾患概念があり、ACSのなかに急性心筋梗塞と不安定狭心症が含まれます。
- 急性心筋梗塞:血栓で冠動脈が完全閉塞することで心筋壊死をきたす
- 不安定狭心症:血栓で冠動脈が高度狭窄しているが、血流は多少あるので心筋壊死まではきたしていない
実際には、急性心筋梗塞と不安定狭心症は紙一重であり、容易に不安定狭心症→急性心筋梗塞に移行します。
したがって、今回の記事では馴染みがあって理解しやすいように急性冠症候群=急性心筋梗塞として扱います。
心臓は、全身へ血液を送り出す筋肉のポンプです。
その心臓の筋肉(心筋)自体にも、冠動脈という血管から酸素を含む血液が送られています。
心筋梗塞となれば、症状を我慢している間にも、心筋の損傷(壊死)はどんどん進行していきます。
だからこそ、時間との戦いで1分でも早く再灌流させる(冠動脈の血流を戻して、心筋を助ける)必要があります。
症状の強さは、必ずしも心筋壊死の程度を反映しません。
「歩けるから…」と無理に行動を続ければ、致死的不整脈(心室細動)や心不全、心破裂といった合併症を起こして、死に至ります。
幸いにも死なずに済んだとしても、時間が経てば経つほど心筋壊死が進行するため、心臓に大きな後遺症(ポンプ不全)を残すことになります。
詳細は過去記事でも解説しているため、ぜひ合わせてご覧ください!👇️


登山中の突然死の主因「急性心筋梗塞」とは? 登山中の突然死の主因である「急性心筋梗塞」について、循環器専門医が登山者の視点から解説。発生メカニズム/よくある誤解/典型的な症状/山中での応急対応/予防法までを、事例を交えてわかりやすく紹介。胸の違和感を軽視しないための実践的ガイドです。
胸部圧迫感+冷汗・放散痛が重なると、心筋梗塞の確率大


【心筋梗塞である確率】
胸部症状+奥歯への放散痛=80%
胸部症状+突然発症=35%
胸部症状+冷汗=40%
胸部症状+左肩への放散痛=40%
上記のいずれかの症状があれば、山中では心筋梗塞として対応すべき
冷汗・左肩・歯への放散痛は、急性心筋梗塞を疑う手がかりになる
胸痛で救急外来を受診した420人を調べた国内の研究では、実際に急性冠症候群(ACS)と診断されたのは65人(15.5%)でした。
この集団を用いて、それぞれの症状に対する陽性尤度比・陰性尤度比を算出しています。
| 症状 | 陽性尤度比 | 陰性尤度比 |
|---|---|---|
| 突然発症 | 2.12倍 | 0.57倍 |
| 冷汗がある | 2.64倍 | 0.67倍 |
| 左肩への放散痛がある | 2.89倍 | 0.90倍 |
| 歯への放散痛がある | 16.38 倍 | 0.91倍 |
Yoshimura S, et al. Circ J. 2025;89:1740–1751. PMID: 40399106
- 原文では”Radiation to tooth”となっていたので、そのまま”歯への放散痛”と略しましたが、実際には奥歯(あご)への放散痛という解釈で良いと思います。
尤度比とは「それらしさ」を表しており、陽性尤度比が高い項目を満たすほどACSの可能性が高くなりますし、逆に陰性尤度比が低い項目を満たすほど、ACSの可能性は低くなります。
具体的に計算してみましょう!
一般的に、胸痛患者さんが急性心筋梗塞である確率は20%程度と見積もります=検査前確率20%
この条件でそれぞれを計算すると、胸痛に加えて、以下の所見がある場合(あるいはない場合)には、心筋梗塞である確率は以下のとおりになります。
胸部症状に加えて、以下がある場合
突然発症(+)→34.6%
冷汗(+)→39.8%
左肩への放散痛(+)→41.9%
歯への放散痛(+)→80.4%
胸部症状に加えて、以下がない場合
突然発症(ー)→12.5%
冷汗(ー)→14.3%
左肩への放散痛(ー)→18.4%
歯への放散痛(ー)→18.5%
つまり、胸部症状があって、奥歯(あご)への放散痛がある場合には、急性心筋梗塞の可能性は80%程度と非常に高い確率になります。



歯以外でも、突然発症・冷汗・左肩への放散痛のいずれかを伴えば30〜40%ぐらいは心筋梗塞の可能性があるということなので、山中であれば、これはもはや心筋梗塞として対応すべきだと考えます。
一方で、胸部症状だけでその他に症状がない場合…
心筋梗塞の可能性は12.5〜18.5%と、もともとの20%から大きく下がることはありません。
つまり、典型的な胸部症状=”胸全体の違和感・圧迫感だけ”でも心筋梗塞は否定できないということになります。
胸部症状には波がある:強まったり、消えたりする





休んだら胸の重さが引きました。
少しペースを落とせば、歩いても大丈夫でしょうか?
心筋梗塞の症状は時として波があります。
症状が強まったり、弱まったり、時には完全に症状が消えることもあります。



胸部不快感が消えたから、もう安心ということは全くありません。
冠動脈が血栓で狭窄・閉塞しているため、血栓の状態によっては流れたり・詰まったりを繰り返しているためです。
休憩することにより、心臓が必要とする酸素の量も減ります。
多少なりとも冠動脈の血流があれば、休憩により心臓の血流が充足することから、症状が軽くなったり、完全に消失することもあります。
逆に言えば、
- これまでなかった胸の圧迫感が急に出てきた
- 休めば症状が軽くなるけど、軽い登りでも悪化してペースが上げられない
こんなときには急性心筋梗塞を強く疑います。
登山中の心筋梗塞を「ただのバテかな?」と考える人は実はかなり多いです。
「バテ」については以下の記事で解説しています👇️


スマートウォッチでは、心筋梗塞の診断は難しい


スマートウォッチで心筋梗塞を診断したり、アラートを出してくれる機能はありません。
最近はスマートウォッチの進化が素晴らしいですね。
心拍数(正確には脈拍数)が計測できるのはもちろんのこと、心電図を記録したり、心房細動(不整脈)を自動検出したり、睡眠時間・睡眠の質の計測、酸素飽和度の測定、高血圧の推定・血圧測定など様々な健康管理機能がついています。
しかしながら、
- スマートウォッチで心筋梗塞を検出してくれるような機能はありません(2026年10月時点)。
装着しているスマートウォッチが何も言わなくても、心筋梗塞を否定する材料にはなりません。


実は「Apple watchで急性心筋梗塞を診断できる」ということを検証した論文自体はあります。
2020年の研究では、心筋梗塞の患者81人と健康な人19人を対象に、Apple Watchを胸や腹部などに当てて9誘導分の心電図を記録し、循環器内科医が判読しました。
通常の12誘導心電図と比較したところ、ST上昇という心筋梗塞を疑う心電図変化を、感度93%・特異度95%で捉えることができました。
つまり、循環器内科医が波形を判読することで、Apple Watchで記録した心電図も急性心筋梗塞の診断に役立つ可能性がある、ということです。
Spaccarotella CAM, et al. JAMA Cardiol. 2020;5(10):1176–1180. PMID: 32865545
ただし、これは標準機能ではなく、もともと心電図判読ができる医師が応用して使用した場合に限ります。
登山で使うスマートウォッチの健康管理機能は、以下の記事で比較しています👇️


心筋梗塞かもしれないと思ったら、早く安全に病院へ


今回いちばん伝えたいのは、「できるだけ早期に、心筋梗塞かもしれないと気づく」ことです。
心筋梗塞だった場合、無治療で経過すれば死亡率が約30〜50%と推定されています。一方で、
心筋梗塞であっても速やかに緊急カテーテル治療を受けられれば、死亡率は約5〜8%まで低下します。
したがって、心筋梗塞を疑ったからには悪い方で考えて、早く安全に病院に行く手段を考えましょう!
山では、登山を中止し、どうするのが最も早く受診できるか考える
- 心臓に負担をかけないこと
=本来は歩くことも禁止です - できるだけ早期に病院でカテーテル治療を受ける
できるだけ早期とは、文字通りに1分でも早いほうが望ましいです
運動するということは、全身の筋肉がたくさんの血液を必要とするため、供給源である心臓の仕事量が増加します。
急性心筋梗塞は心筋が壊死する病気なので、当然心臓の仕事量が増えれば増えるだけ、心負荷が大きくなり、心筋障害の範囲が広がったり、合併症による突然死につながるなど、運動は禁忌になります。
つまり、動かないほうが心臓にとってはいいということになります。
しかし、問題は、登山中の場合には上記の①②が相反してしまうことがあるということです。
つまり、
- 歩かないほうがいい=その場で休んで救助を待つ→救助隊が到着するのは早くても数時間後
これでは正直に言えば遅すぎます。
したがって、時刻・現在地・天候・装備などを総合的に判断して、
- 動くことによるリスク=自力下山をする(心臓を頑張らせる)リスク
- 動かないことによるリスク=病院受診が遅れるリスク・低体温症リスク
この両者を天秤にかけて、いいバランスの選択を取るしかありません。
登山口まであと15分であれば、あえて救助要請は行わずに、頑張って下山してから救急車を呼ぶほうが良い可能性が高いです。
逆に登山口や最寄りの山小屋まで数時間は上り下りが続くのであれば、無理をせずビバーク体制をとって救助要請するほうがいいかもしれません。
救助隊の対応が正しいとは限らない
こんなことを書くと怒られそうですが…😅
僕が今回の記事を書こうと思ったきっかけになった出来事があります。
それは多くの登山者同様に救助隊の方々も心筋梗塞がどういう症状なのか誤解していると感じた出来事です。
まず原則として、山岳救助現場では危険が伴います。
背負い搬送にしてもストレッチャー搬送にしても、急な山道を人を抱えて降りるのは救助者にもリスクがあります。
そんなリスクを背負って救助に来てくれる救助隊には、全力で感謝しましょう。
したがって、要救助者が歩けるのであれば、介助歩行で歩いて下山してもらうというケースは少なくありません。
しかし、この判断が急性心筋梗塞の場合には命取りになりかねません。
ここまで記事を読んできた皆さんならわかると思いますが、急性心筋梗塞は頑張れば自力下山できないこともないぐらいの症状であることが多いのです。
実際に登山者外来を受診してくださった方の中には、山中で心筋梗塞を発症し、救助要請したにも関わらず、介助歩行で下山になったケースもあります。
16時すぎ、山小屋で心筋梗塞を発症しました。救助要請したのが夕方だったので、翌朝まで救助を待った後に、結局、介助歩行での自力下山で2時間ほどかけて下山し、登山口から救急車で病院に搬送されていました。
病院に到着したのは、14時頃。
発症からすでに20時間ほど経過してしまっていました。
彼は命は助かりましたが、病院到着時には心不全状態で、退院後にも心ポンプ機能が大きく低下してしまい、この後遺症は一生抱えて生きていく必要があります。



自分は心筋梗塞かもしれないと疑っているのであれば、
救助隊から「歩けますか?」と聞かれたら、「胸が苦しくて心筋梗塞だと思う。歩くと命に関わるかもしれないので搬送してほしい。」と伝えましょう。
※山岳救助隊の方々を非難する意図は一切ありません。救助隊も全員が医学的知識があるわけではないため、急性心筋梗塞の病態も危険性も理解していないケースもあるという注意喚起です。
町ではすぐに救急要請を
町中であれば、救急車が約10分で到着します。
したがって、心筋梗塞を疑う症状が出た場合には、すぐに119番に連絡し、救急車で病院を受診してください。
それが最も安全かつ最速でカテーテル治療を受けられる方法になります。
本人や家族が車を運転して病院へ向かうことはオススメできません。



過去に夫が心筋梗塞になり、妻の運転で病院を受診しようとした方がいました。
その方は、残念ながら車内で心肺停止になってしまい、奥さんが慌てて直接救急車搬送口に車を寄せて助けを求めてきましたが、残念ながら助けられませんでした。
山で「心筋梗塞かも」と思ったら、現場でやるべき3つ





理屈はわかりました。
でも実際に山で胸がおかしいと感じたら、まず何をすればいいですか?
いざというときは、誰でも慌てますので、次の3つを覚えておいてください。
- 行動を中止して、体を休める
- 通報する:「心筋梗塞を疑っている」と伝える
- 低体温症対策をして待機する
① 行動を中止して、体を休める
「おかしいな」と思ったら、まずはその場で止まりましょう。
同行者がいるのであれば、「胸がおかしい・心筋梗塞かもしれない」と仲間に伝えることも大切です。
登山者は我慢強い人が多いです。
「迷惑をかけたくない」「もう少し様子を見よう」と、我慢して行動を続けてしまいがちです。
でも、心筋梗塞は時間との勝負です。遠慮せずに、言葉に出して伝えてください。
逆に同行者の立場であれば、本人が「大丈夫」と言っても様子がおかしければそのまま信じないでください。
まずはザックを下ろして、ザックの上に座って休みましょう。
息苦しいときは、横になるよりも、座って上半身を起こしていたほうが楽なことが多いです。
そして、次のサインがないか、確認します。
- 胸全体が重い・締めつけられる・なんとも言えない不快感がある
- 休憩しても冷汗が引かない
- 肩・腕・歯やあごに響く痛みや違和感がある
1つでも当てはまれば、心筋梗塞として動くべきです。
休めば症状が軽くなる可能性はありますが、心筋梗塞の症状には波があることは前述の通りです。
② 通報する:「心筋梗塞を疑っている」と伝える
電波があれば、すぐに110番(または119番)へ連絡します。
最初に伝えるのは、「山岳遭難であること」と「現在地」です。
そのうえで、次の3点を伝えましょう。
- 心筋梗塞を疑っていること
- 症状が始まった時刻
- 歩くと心臓に負担がかかるので、できれば歩かずに搬送してほしいこと
症状が始まった時刻は、病院での治療方針を決めるうえで大切な情報です。
忘れないうちに、スマホにメモしておきましょう。



登山口まで近くて、自分で下りると決めた場合も、歩き出す前に119番をしておきましょう。
登山口に救急車が待っていてくれれば、それだけ早く病院に着けます。
荷物は仲間に全部持ってもらって、ゆっくり下りてください。
③ 低体温症対策をして待機する
動かずに待っていると、今度は体が冷えてきます。
救助が来るまでには、早くても数時間。夕方なら翌朝になることもあります。
防寒着を着て、ザックの上に座り、ツェルトやシェルターをかぶりましょう。
体が冷えると震えが出たり、血圧が上がることで、心臓の負担も増えます。
仲間は本人から目を離さず、声をかけ続けてください。
ビバークの考え方・基本は、以下の記事にまとめています👇️


同行者とビバーク中に要救助者の反応がなくなったら…
心筋梗塞では、心室細動という不整脈で突然心臓が止まることがあります。
呼びかけに反応がなく、普段どおりの呼吸をしていなければ、それは心肺停止状態です。
すぐに胸骨圧迫を始めてください。
近くに山小屋があれば、AEDを持ってきてもらいましょう。
山での心肺蘇生については、以下の記事で解説しています👇️





迷ったときは、心筋梗塞として行動しましょう。
結果的に違ったとしても、それで構いません。
まとめ


まとめです!
- 心筋梗塞の典型的症状は胸全体の圧迫感・違和感
- 息切れ、冷汗、吐き気、放散痛(肩や喉・奥歯へ締めつけ感)を伴った場合には心筋梗塞の可能性大です。
- “症状の強さ”と”心筋梗塞の重症度”は相関しない
- 心筋梗塞患者の多くが病院に来るまで心筋梗塞だと思っていない。
- 軽い症状でも重症化、最悪突然死するケースがある。
- 心筋梗塞は無処置だと死亡率30〜50%❗️
- 心筋梗塞かもしれないと思ったら、すぐに行動を中止して速やかに病院受診する方法を模索する。
- 山では「動くリスク=心負荷増大」と「動かないリスク=病院受診の遅れ・低体温症リスク」を天秤にかけて判断する。
テレビドラマに出てくるような「うずくまってしまう強い胸痛」を心筋梗塞のイメージにしていると、実際の症状を見逃してしまいます。
山中で心筋梗塞を起こすことはめずらしいことではありません。
「この程度の症状でも、心筋梗塞のことがある」
その知識をぜひ備えて、自分や仲間の異変に気づくために役立ててください!
最後まで閲覧いただきありがとうございました!
※本記事は医療情報の提供を目的としており、個別の医療行為を推奨するものではありません。実際の症状や治療については、必ず医師・医療機関にご相談ください。


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