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はじめに
こんにちは!市川です!
僕の自己紹介はコチラ

循環器内科医としての病院勤務の傍らで、国際山岳医(DiMM)として以下のような活動をしています。
✔️登山者検診/登山者外来による予防・登山サポート
✔️赤岳鉱泉山岳診療所を運営(日本で唯一冬季診療も行っている診療所)
さらに「医療から登山をもっと安全に」をミッションとしてブログを通じて登山における医学的内容を発信しています。
2026年5月末〜Tozan Medical Officeを立ち上げました。
「山岳医療を、相談できる距離に。」
まずはTozan Medical Consulting〜登山×医療相談〜という名の登山者に対する個別のオンライン面談を開始しています。興味がある方はぜひこちらのリンクから詳細をご覧ください😊
今日のテーマはこちら
「山で眠れない夜」をどうするかです。
消灯して、あちこちからイビキが聞こえてくる。
目だけが冴えていて、その場で寝返りを打っても一向に眠れない…。
時計を見るとまだ23時。明日は4時起きなのに…。
山小屋の夜が長い。
これは登山者の多くが経験しているのではないでしょうか。
そして、多くの方が「山だから…、いつもと違う環境だから仕方ない」で諦めてはいませんか?
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眠れないと翌日のパフォーマンスに響くのではという不安もありますが、それよりも“なかなか眠れずに夜が長いこと自体が暇でつらい”ですよね😅
今回の記事は、その長い夜を少しでも短くするためにできることを模索したいと思います。
夜ぐっすり眠るための最初のステップとして…、
“「眠れない」を2つに分ける”ことが大切です。
- 寝つけないのか:入眠障害
- 何度も目が覚めるのか:中途覚醒
この2つは、原因も対策も異なります。
- 「眠れない」を2つのタイプに分けてできる対策を知ろう!
- 寝つけない
- 夜中に何度も目が覚めてしまう
- 山での睡眠で避けるべきものは何?
- 睡眠薬は?CBDは?鼻腔拡張テープは?
- 山での不眠に混ざる病気のサインの見分け方
「山だから仕方ない」で終わらせません。
まずは自分がどのタイプかを決めるところから始め、山でも快眠を手に入れましょう!
「眠れない」はどちらのタイプ?


「登山」「眠れない」で検索すると、睡眠対策グッズがたくさん紹介されたページが出てくるか、「身体が興奮しているから、場数をこなして慣れるしかない」といった解説がされることが多いです。
これらはプラセボ効果も含めてあながち間違いではないですが…
診察室で不眠の相談を受けるとき、最初に必ず聞くことがあります。
「寝つけないのか、途中で目が覚めるのか」
この2つで、疑うものも打つ手も変わるからです。
山でも同じです。
「山小屋で眠れない」とひとまとめにするから、対策がグッズの寄せ集めになってしまいます。
| あなたの「眠れない」は? | 主な要因 | 対策 |
|---|---|---|
| ① 寝つけない 横になっても目が冴えている | ✔知らない場所での警戒 ✔体内時計と睡眠負債のずれ | ✔手ぬぐい枕カバー&インナーシーツ ✔山行数日前から就寝時間を早める ✔湯たんぽで寝床を先に温める |
| ② 何度も目が覚める ウトウトしては起きるをくり返す | ✔物音・光 ✔鼻詰まり ✔周期性呼吸/もともとの睡眠時無呼吸 | ✔耳栓&アイマスク ✔鼻腔拡張テープ ✔就寝高度を上げすぎない ✔睡眠時無呼吸なら主治医へ相談 |
※①寝つけないタイプが山では多い印象がありますが、どのタイプかは人によりますし、重複することもあります。
それでは順番に解説していきます!
① 寝つけない ── 横になっても目が冴えている
いちばん多くの方が悩んでいるのがこのタイプだと思います。
しかし、対策が多いのもこのタイプです。


いつもと違う場所では、体が「警戒モード」のまま
- 手ぬぐいやタオルを枕に一枚かける
- インナーシーツを使用する
これらの対策でいつもに近い慣れた環境を作りましょう
「枕が変わると眠れない体質で」とよく言われます。
ですがこれは体質というより、体が眠る準備に入れていない状態です。
「いつもと違う条件で寝ること」によって初日が眠りにくいことは、いくつもの研究で確認されています。
睡眠研究ではこれを“初夜効果”と呼び、寝つくまでの時間、夜中に目が覚める時間、総睡眠時間のいずれにも影響が出ます。
そして、多くの場合、2晩目には改善することも知られています。
つまり「慣れるしかない」は半分は正解で、初日にはどうにもならない部分が残ります。
なるべく環境をいつもに近づける ── 手ぬぐい一枚でできること
では、初夜効果をなるべく軽減させることはできないか?
手がかりは「匂い」にあります。
「慣れた匂い」によって睡眠効率は改善するし、「思い込み」だけでも睡眠の質は改善するということが報告されています。
155人が、パートナーの匂いがついた枕カバーで2晩、別の匂いで2晩眠りました(順序はランダム)。
- 睡眠効率は、実際にパートナーの匂いだったときに高かった。
- さらに、本人が答えた「睡眠の質」は、パートナーの匂いだと信じていたときに高かった
Hofer MK, Chen FS. Psychol Sci. 2020;31(4):449-459.(PMID: 32163721)
慣れた心地よい匂いは、呼吸を通して体を落ち着ける方向に働きます。そして、その落ち着きが、睡眠効率という結果に結びついている。
初夜効果をゆるめる材料として、匂いはかなり有望だと思います。
これらに対応して僕自身がオススメする対策としては、
手ぬぐいやタオルを枕に一枚かける、インナーシーツを使用することで、普段に近い環境を作ることです



手ぬぐいを1枚枕カバーとしてかけるだけで、実感としてはかなりリラックスできます。
使い慣れた布には、自分の匂いがついています。
顔は表皮の中でもかなり敏感なので、その顔に自分の普段使っている布が当たることも快適な睡眠に影響しているのかなと考えています。
体がまだ眠る準備をしていない
山小屋の消灯時間は、多くの現代人にとって、覚醒シグナルのピーク≒体内時計的に「もっとも寝つけない」タイミング
➜山行の数日前から就寝を少しずつ早めることで、山小屋の消灯時間に入眠しやすいタイミングを持ってきましょう
山小屋の消灯は21時、小屋によっては20時です。
普段24時に寝ている人には数時間早い。
ここで体に何が起きているのかを、睡眠医学の観点で整理しておきます。


眠りは「2つの力の綱引き」で決まります
- 睡眠負債:起きているあいだ、じわじわ溜まっていく眠気。眠れば返済されて減る
- 体内時計が出す覚醒シグナル:「まだ起きていろ」と押し返す力。時刻によって強さが変わる
➜睡眠負債が覚醒シグナルを上回った瞬間に、人は眠りに落ちる
ここでいう睡眠負債は「覚醒中は蓄積されていき、眠れば返済できるもの」です。
夕方から夜にかけて、睡眠負債はもうかなり溜まっています。
それでも眠くならないのは、同じ時間帯に覚醒シグナルも強くなっているからです。
山小屋の21時消灯は、普段24時頃に寝ている人にとっては、むしろ覚醒シグナルがピークの時間帯です。
wake maintenance zoneとも呼ばれ、そもそも体内時計的に「もっとも寝つけない」タイミングなのです。
ただし、覚醒シグナルは睡眠負債に押し負けます。
その日が寝不足状態でスタートしていれば、睡眠負債の量が多くなるので、もっと早いタイミングで覚醒シグナルを追い越して眠ることができます。
実際に未明から起床して長時間行動している場合には、夜21時にはぐっすり眠れるという人もいますよね。
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寝不足だと夜早く眠くなるのは当たり前ですね😅
体内時計と睡眠の関係を調べた実験では、
- 通常どおり眠れている人は、21時20分ごろに最も入眠しにくくなった。
- 睡眠不足で睡眠負債が大きい人では、この時間帯での入眠障害が消えていた
Sargent C, et al. Chronobiol Int. 2012;29(5):565-571.(PMID: 22621352)
前日にあえて睡眠時間を削って寝不足状態で登山することはおすすめできないので、
普段の就寝が遅い方は、
山行の数日前から就寝を少しずつ早めることで、覚醒シグナルが強い時間帯をずらし、山小屋の消灯時間に入眠しやすいタイミングを持って来ることをオススメします。
寝床を温めておくと、寝つきがよくなり睡眠の質も上がる



「足元を温めると寝つきがよくなる」って言うけどどうなの?



“手足がポカポカ”していると寝つきがよくなり、睡眠の質も上がります。
実はこれはちゃんと証明されています。
正確には“足元を温めるよりも、体幹部を温めたほうがいい”とされています。
仕組みとしては「体が温まるから寝つきがよくなるというよりも、手足から放熱できる≒手足がポカポカしていると眠りがよくなる」のです。
なんのこっちゃ?ですね😅
もう少しわかりやすく解説します。
入眠のスイッチを押しているのは、手足から熱が逃げているかどうかです。
手足の血管はラジエーターの働きをしていて、血管が広がると、そこから熱が逃げていきます。
「熱中症の際には手足を冷やせ」という記事を書きましたが、同じ理屈ですね。


入眠までの時間に最も影響を与える因子を比べた実験では、手足と体幹の皮膚の温度差(=どれだけ熱を逃がせているか)が入眠までの時間を最も短縮させる因子でした。
Kräuchi K, et al. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2000;278(3):R741-748.(PMID: 10712296)
そして、放熱は睡眠の質も改善させます。
温度を調節できるスーツを着せて、皮膚の温度をわずか0.4℃だけ上げた実験があります(深部体温は変化無し)。
- 夜中に目が覚めるのが抑えられた:中途覚醒の抑制
- 高齢者では深い睡眠がほぼ倍増し、早朝に目が覚める確率が0.58から0.04まで下がった:睡眠の質の改善
Raymann RJ, et al. Brain. 2008;131(Pt 2):500-513.(PMID: 18192289)



末梢血管(≒手足の血管)を拡張させるには、体幹部を温めるのがベストです。
身体が温まれば、体温調節反応として、自然に末梢血管は拡張し、放熱を始めます。
就寝前に入浴ができればベストですが、山小屋ではなかなか難しいです。
山小屋での現実的な対応としては、湯たんぽを用いて寝床の温度を上げておくことをお勧めします。


湯たんぽを持っていくのは非効率ですよね。
プラティパス®やウォーターボトルに山小屋でお湯をもらってタオル・手ぬぐいなどで包めば、立派な湯たんぽになりますので、オススメです。
夕食前から寝床に仕込んでおけば、就寝時にはちょうどよく温まり、翌朝には程よく冷めているので、そのまま飲水に使えます。
これだけで寝つきも、夜中の目覚めも、眠りの深さも改善する可能性が高くなります。



山小屋の布団は雨続きで布団を干せていないこともあります。
そういった際にも湯たんぽで布団を数時間温めておけば、湿り気もいくらか抜けて快適に眠れるような気がします😊
テント泊でマットの断熱を妥協しないのも、同じ理屈です。
地面に熱を奪われ続けると、体は手足の血管を縮めて熱を守ろうとします。そうなると放熱できず、寝つけません。
水ボトル兼即席湯たんぽとしてオススメ👇️
寝つけないときにやることまとめ
- 登山数日前から就寝時間を早めておく
- 体内時計の調整
- 肌に触れる面を自分のものにする
- 手ぬぐい・タオル・インナーシーツ
- プラティパス湯たんぽで寝床を先に温める
- 「眠らなければ」をやめる
- 横になって休めていれば体は回復します。焦る必要はありません。
- それでも眠れない人は、睡眠薬も考慮になる
- ただし山では睡眠薬の選択に注意が必要です(後述)
② 途中で目が覚めてしまう:中途覚醒


寝つきは悪くないのに、途中で目が覚めてしまい眠れなくなるタイプを“中途覚醒“といいます。
- 物音・光で目が覚める
- 無呼吸で目が覚める
などが原因となります。
物音・光で目が覚める
皆さん御存知の通り、混雑期の山小屋では、イビキ、寝返り、床のきしみ、深夜のトイレ、早出の人の準備音が続きます。
当然これらも中途覚醒の原因になり得ますが、あまり医学的な内容じゃないので割愛します😅
物音、光が気になる人は、耳栓やアイマスクで物理的に保護してしまいましょう。
無呼吸で目が覚める ── 周期性呼吸


周期性呼吸による覚醒を防ぐには、就寝高度を調整して、その高度にしっかり順応する
皆さんは山の中で「息が詰まる感じで目が覚めた」ことはないでしょうか?
高所では”周期性呼吸”という現象が誰でも起こります。
- 低酸素を感じ取った、体が換気を増やす。
- すると二酸化炭素が下がりすぎて、脳が「もう呼吸しなくていい」と判断し、呼吸が一瞬止まる。
- 止まればまた低酸素になる。
このような過呼吸と無呼吸がくり返される状態を“周期性呼吸”、別名、“中枢性無呼吸”ともいいます。
無呼吸により低酸素状態になるたびに睡眠が浅くなり、ときに覚醒します。
ヒマラヤをトレッキングしながら登山者の睡眠を脳波で記録した研究では、標高が上がるにつれて、
- 深い睡眠が減り、浅い睡眠が増えた
- 周期性呼吸が出た人では、深夜に目が覚める回数が増えた
というデータがあります。
Johnson PL, et al. J Sleep Res. 2010;19(1 Pt 2):148-156.(PMID: 19663929)
過去にも高所と睡眠の関係については以下の記事で解説していますが、睡眠中は最も低酸素状態になる、すなわち周期性呼吸の影響も大きく出ます。
つまり、周期性呼吸による覚醒を防ぐには、就寝高度を調整して、その高度にしっかり順応することが大切です。



ある高度で「息が詰まって目が覚めてしまう」という方は、次回からはもう少し高度が低い山小屋で1泊(順応)してから、高度が高い山小屋で宿泊するようにすると周期性呼吸の影響が小さくなります。


鼻が詰まって目が覚める ── 鼻腔拡張テープの正しい使いどころ
鼻腔拡張テープを使用した方がいい人は…
- 中途覚醒しやすい方
- 鼻詰まりに悩む方
上記に当てはまる方は、寝つき、睡眠の質が改善することが示されています。
睡眠時無呼吸といえば”いびき”
夜間のいびき対策といえば、鼻腔拡張テープを思い浮かべる方も少なくないのではないでしょうか。
そのため、鼻腔拡張テープが睡眠時無呼吸対策になると思っている方もいるかもしれませんが、睡眠時無呼吸は全く減らしません。
理屈を知れば当然で、睡眠時無呼吸は、のどの奥(後咽頭)がふさがって起きます。
鼻の入口を広げる道具で後咽頭が広がるわけはありません。
じゃあ、鼻腔拡張テープは意味がないかといえば、そんなこともありません。
- もともと鼻詰まりが多く鼻呼吸がしづらいような方
鼻呼吸がしづらいと眠りは浅くなりますし、もともと低酸素環境である高所ではよりその影響は大きくなります。
ここで鼻腔拡張テープが候補になります。
中途覚醒型の不眠と軽い睡眠呼吸障害の症状をもつ80人を、鼻腔拡張テープを使う群と使わない群に分けた比較試験では、4週間後に
- 不眠の重症度と睡眠の質が、対照群よりはっきり改善した
- 日中の機能と生活の質も改善した
Krakow B, et al. Sleep Breath. 2006;10(1):16-28.(PMID: 16496118)
夜間の鼻づまりに悩む70人に28日間使ってもらった研究でも、
- 日中の眠気が減り、寝つき・睡眠の質・朝の爽快感がいずれも改善
- 鼻の抵抗は約4割下がり、自然に目が覚める回数が約37%減少
Wheatley JR, et al. Adv Ther. 2019;36(7):1657-1671.(PMID: 31119695)
中途覚醒しやすい方、鼻詰まりに悩む方については、鼻腔拡張テープを使用することで、寝つき、睡眠の質が改善することが示されています。
睡眠時無呼吸の診断を受けている方へ
主治医と相談してダイアモックス®(高山病治療薬)の処方も検討してください。
高所での無呼吸に効果があります。
※ダイアモックス®(商品名)=アセタゾラミド(一般名)です。
もともと閉塞性睡眠時無呼吸がある方が高所に泊まると、そこに中枢性の無呼吸が上乗せされます。
報告では1,600m台からその現象が起き、健康な人より低い標高で影響が出ます。
断続的な低酸素と持続的な低酸素が重なり、心拍や血圧に負担がかかることも指摘されています。
Bloch KE, Latshang TD, Ulrich S. High Alt Med Biol. 2015;16(2):110-116.(PMID: 25973669)
通常、睡眠時無呼吸症候群と診断された方はCPAPと呼ばれる機械を処方されている事が多いです。
CPAPを使っている方を対象に標高1,630mと2,590mで行われた試験では、CPAPにアセタゾラミド(高山病治療薬)を足すと、夜間の酸素の落ち込みも無呼吸の回数も改善することが示されています。
Latshang TD, et al. JAMA. 2012;308(22):2390-2398.(PMID: 23232895)
最近のCPAPはかなり軽量化され、バッテリー駆動する機種もあるため、山小屋でも使用できなくはありませんが、CPAPを携帯して登山をするのは、サイズ・重量などからまだ現実的ではないのかなと思います🤔
Bloch KE, 2015 の報告では、CPAP療法が実施できない場合は、アセタゾラミド単独療法でも、酸素化と睡眠時無呼吸を改善し、高地での閉塞性無呼吸患者の血圧の過剰な上昇を防ぐと報告されています。



以上を踏まえると、睡眠時無呼吸症候群で普段CPAP療法をしている方は、山中で宿泊する場合にはダイアモックス®(アセタゾラミド)の処方を主治医と相談してみるのもアリでしょう。
なお、ダイアモックス®(アセタゾラミド)は高山病治療薬としての保険適応はありませんが、睡眠時無呼吸症候群の治療薬として保険適応がありますので、ご安心ください。
山で眠れないとき…、不眠の中に病気のサインが隠れている!?


息が苦しくて眠れないなら、高地肺水腫を疑う➜即下山
頭痛+吐き気があるなら、急性高山病➜無理に眠らず上体を起こして口すぼめ呼吸を。
※口すぼめ呼吸=口をすぼめて細く長く吐く呼吸です。やり方は高所での酸素飽和度の記事で解説しています。
山で眠れないとき…
「眠れない」という状態のなかに、病気が隠れている可能性もあります。
まずは2つの病気を除外しましょう。
| 眠れない理由 | 疑う病気 | やること |
|---|---|---|
| 息が苦しくて横になれない 咳が出る/泡のような痰が出る | 高地肺水腫(HAPE) | ✔すぐ高度を下げる ✔夜でも待たずに、救助要請 |
| ずきずきする頭痛+吐き気+ぼんやりする | 急性高山病(AMS) | ✔上体を起こして深呼吸・口すぼめ呼吸で呼吸を促す ✔睡眠薬で無理に眠るのは禁物 |
とくに注意していただきたいのが高地肺水腫です。
この病気は夜間に悪くなるのが特徴で、日本人の症例をまとめた報告でも約6割で夜間に症状が悪化しています。
Hanaoka M, Kobayashi T, Droma Y, et al. Intern Med. 2024;63(17):2355-2366.(PMID: 38171855)
高地肺水腫は放置すると命に関わります。
“高度を下げることが最も重要な治療”になるため、救助要請も検討してできるだけ早期に高度を下げましょう。
息が苦しくて眠れないなら、高地肺水腫を疑う➜即下山
頭痛+吐き気があるなら、急性高山病➜無理に眠らず上体を起こして口すぼめ呼吸を。
上記2つの症状がないのであれば、それは通常の不眠です。
すでに解説しているとおり、以下の2つのタイプに分けて対応すれば問題はありません。
- 寝つけない ── 横になっても目が冴えている
- 途中で目が覚めてしまう:中途覚醒
山で睡眠を促すために〜使っていいもの、避けるべきもの〜


山で睡眠を促すために飲むもので問題になるのは、呼吸抑制があるかどうかです。
高所では睡眠中に極端に低酸素状態になります。
そこに呼吸抑制作用がある薬剤・食品を摂っていると仮に眠れたとしても当然低酸素は悪化し、高山病などにつながります。
「山で睡眠薬は危ない」とよく言われますが、これは半分正しく、半分は古い話です。
かつての睡眠薬には呼吸抑制作用がありましたが、昨今の新規睡眠薬には呼吸抑制作用がほとんどないものが主流になってきています。
| 呼吸への影響 | 山での扱い | |
|---|---|---|
| ベンゾジアゼピン系睡眠薬 例: トリアゾラム(ハルシオン®) ブロチゾラム(レンドルミン®) | 抑える+筋弛緩 | 山では避けるべき |
| 第1世代抗ヒスタミン薬 市販の風邪薬や睡眠改善薬に含まれる 例:ジフェンヒドラミン(ドリエル®) | 鎮静+筋弛緩 | 避けた方がよい |
| 非ベンゾジアゼピン系(Z-drug) 例: ゾルピデム(マイスリー®) エスゾピクロン(ルネスタ®) | 比較的少ないが睡眠時無呼吸では使用注意 | 避けた方がよい |
| メラトニン受容体作動薬 オレキシン受容体拮抗薬 例: ラメルテオン(ロゼレム®) レンボレキサント(デエビゴ®) ダリドレキサント(クービビック®) | なし 軽症〜中等症の睡眠時無呼吸のある人でも安全性が確認されている | 不眠対策の選択肢になる。 ただし高所での検証はなく、処方薬なので事前に主治医と相談 |
| アセタゾラミド | 改善させる | 日本の標高ではほぼ不要であるが、高所に弱い方には高山病予防・治療として有効な薬剤 |
| 鼻腔拡張テープ | 妨げない | 鼻づまりで眠りが浅い人には試す価値がある |
| CBD | 抑えない | 害は少ないが、不眠に効くという根拠がないため推奨しない |
| 寝酒(アルコール) | 抑える | 避けた方がよい 米国CDCも高所到達後48時間は避けるよう明記 |
「山で睡眠薬は危ない」という通説は、呼吸を抑え筋弛緩作用も強いベンゾジアゼピン系が主流だった時代の話です。いま処方の中心になっているメラトニン受容体作動薬とオレキシン受容体拮抗薬は呼吸を抑えず、軽症〜中等症睡眠時無呼吸のある人でも安全性が確認されています。
高所で検証した研究はまだありませんが、一律に否定すべきものではありません。
薬ごとの詳しい話は、以下の記事にまとめてありますので、こちらもぜひ!


アセタゾラミド(ダイアモックス®)は、周期性呼吸そのものを減らし、夜間の酸素を上げる方向に働きます。
眠くする薬とはまったく別のアプローチで、副作用(手足のしびれ・頻尿など)もあるため、詳細は以下の記事で!


まとめ ── 自分のタイプを決めて、手を打つ
まとめです!
この記事の要点は3つです。
- まずは病気が隠れていないか確認
- 息苦しくて横になれない、咳、泡状の痰➜高地肺水腫疑いで即下山
- 頭痛+吐き気(嘔吐)➜急性高山病疑い➜眠らずに口すぼめ呼吸を促す
- 自分の不眠のタイプを見極めて、タイプ別に対応する
- 寝つけない
- 手ぬぐい枕カバー&インナーシーツ
- 山行の数日前から就寝時間を早める
- 湯たんぽで寝床を先に温める
- 途中で目が覚めてしまう
- 物音・光で目が覚めるなら、耳栓&アイマスクで対策
- 息が詰まる感じで目が覚めるなら、次からはもう少し高度が低い山小屋で宿泊して、順応を促す
- 寝つけない
- 山で避けるべきは「呼吸抑制作用」があるもの
- ベンゾジアゼピン系睡眠薬、寝酒は避ける。
- 呼吸抑制作用がない睡眠薬は、主治医と相談した上で不眠対策の選択肢になる
山の夜は長いです。
眠れないまま天井を見つめる時間は、それ自体がつらいものです。
ですがその不眠にはタイプがあり、タイプごとに打てる手があります。
手ぬぐい一枚で変わる夜も、たしかにあります。
創意工夫で山の夜も快適に過ごして登山を楽しみましょう!
最後まで閲覧いただきありがとうございました!
※本記事は医療情報の提供を目的としており、個別の医療行為を推奨するものではありません。特に薬(睡眠薬・アセタゾラミド等)の使用や、持病がある場合の高所泊については、必ず医師・医療機関にご相談ください。






コメント
コメント一覧 (1件)
ご無沙汰しております。久しぶりにブログ覗かせて頂きました。
山での睡眠は毎度の課題ですが、デエビゴとダイアモックスの併用はどうでしょうか?ダイアモックスは入山前日の朝から半錠ずつの服用を指示され、前日朝と晩、当日の朝と晩の4回ほどがいつものパターンとなっていますので晩ダイアモックスとデエビゴの併用ってどうなのか? 腎臓内科の主治医からは特に問題はないと聞いていますが、市川先生はどうお考えかアドバイス頂けると幸いです。